「………遅ェ」
集合の時間、夕刻を過ぎても船にトリトが帰って来ない
同伴させていたコックが言うには、買出しが終わった後、おれの言いつけ通りにトリトは服を買いに行ったらしい。だが、おれも島で医療品の買い付けと蔵書と、そしてトリトと鉢合わせするかと思い服屋にも寄ったが、島内でトリトを見なかった
誰かトリトを見なかったか、とクルーに訊いても「昼頃に食糧買ってるのは見た」「船への道をコックと一緒に帰ってるところは」ばかり。「服屋に入ってったところは後姿だけど確認した」「いつ頃だ」「3時くらいですよ。キャプテンもその後、同じ服屋に入ってってましたよね?」「ああ…だが店内にトリトは居なかったぞ…」どこに行ってしまったんだトリト。だからあれ程迷子には気をつけろと言ったのに。大の男が情けない
ああだこうだとトリトの心配をしていると、クルー達の中でも、少し物静かで臆病がりの男が「あ、あの…キャプテン……」とおずおずと手を上げた。あまり自ら進んでは喋らない男が珍しい
「何だ?」
「は、はい…あの…トリトさんとは…ちょ、直接は関係ないかもしれ…ないんですけど…」
「何でもいい。話してみな」
「さ…さっき島の人間が…噂してたのを聞いたんですが……今、この島に、か、海軍の…巡廻船が…停泊してるらしくて…」
「なに?」
ローの鋭い瞳に射抜かれ、男はひぃ!っと声を上げたが、自分が見聞きしたことを正確に伝えようと挙動不審な手振りで話し続ける
「それ…で、何でもその海軍が…ウチ等の船が…泊まってることを知ったらしく……」
「はあ!?マジかよ!」
「シャチうるさい」
「で、で…、何でも、海軍が、1人の男を、島にある海軍支部基地に、れ、連行…したと…か……」
「…!!」
トリト
「それは何時頃のことだ!」
「ひぃい!た、確か、4時…く、くらい?」
「トリトの姿が最後に見えなくなった頃と同時だな…」
「キャプテン、てーことは…」
「十中八九、トリトが海軍に連れ去られた」
「大変だあああああ!」
「シャチうるさい」
「今のはベポだ!!」
「ベポ、落ち着け」
「う、うん……」
「かける言葉の違い!」
何と言うことだ
トリトを此方の世界で見つけてから早3日
まさかアイツが海軍に掴まるような事態になるとは思っていなかった
でもトリトはああ見えて結構抜けてるところがある。海賊だとは一目で分からないようにスーツを着せておいたが、ボロが出たようだ。無意味だったな。これからはアイツにもツナギを着せよう。きっと似合う……今はそんなこと考えてる場合じゃねえ
情報提供してくれたオドオド男の頭をポンと一撫でし、よくやったありがとう、と労う
ポカン、と自分の頭を押さえた男が、目を丸くさせて驚いた
「あ…頭、撫でるんです…?」
「そうされると嬉しいだろ?」
「…い、嫌ではないですけど…」
「な。俺もだ」
「…?」
立て掛けておいた刀を手にする。
甲板に集まっていたクルー達を見渡した
「トリトを取り戻しに行く。文句ある奴は残れ」
すぐに甲高い雄叫びが上がった
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