▼01 「まぁ食いなさいよ」 「……」 男が目の前に用意したトーストを一瞥する。腹は減っていたが、どこの誰かも分からないような奴からの食べ物なんて受け取れるか。毒のバターでも塗られてたらどうする。目の前の男は貪り食ってるが無視だ ローは、今日も朝から自宅周辺に住んでいる生き物達の解剖をすることを良しとし、海辺を散策していた。目につく生物は全部研究済みで、真新しい奴いねぇかなぁとキョロキョロウロウロしてはいたが、だが自分のその行動がこんな摩訶不思議な場所に飛ばされてしまったこととは何の関係もないことは、齢5歳のローにも推し量れた。 「…ところでよ」 お前、どこの家の子?ウチのマンションの何階に住んでんの? 朝飯を食い終えたトリトが未だに警戒して己の半径1mに近寄って来ないローに質問をする。ローは、トリトのことを人攫いだと思っている。でなければおかしい。こんなの絶対おかしいのだ 「……その前に」 「お、やっと喋った」 「ここが、どこだ」 「…日本の、しがない地方の田舎臭い県の中心部の俺のマンションですけど?」 ニホン?ケン?マンションは分かった。限られた土地に何軒もの世帯が集合して暮らす集合住宅のことだ。ローは聞かされた単語を記憶したが、自分のいる場所については殆ど分からなかった 「…まぁ、いいからそれ食えよ。食い終わったら、親御さんとこ連れてってやるから」 さっきから腹の虫が凄いぞ。男は笑った。人当たりの良さそうな、到底人攫いをしそうにはない、間抜けな顔 それに安心したわけではないが、腹も減っていたし、目の前で用意されて目の前でそれを食した男が食べていたから平気だろう。かぶり付いたトーストは、いつも食べてるバターよりも塩分が少なく甘かった。 「まぁ因みに俺、トリトだけど、ガキんちょの名前は?」 「……」 「名前ぐらいは」 口に溜め込んでおいたトーストを咀嚼して、ローは極力小さな声で 「…ロー」と答えた。ローから答えがあったことにトリトは喜んだが、「……ろー??」外国人か?と呟いたトリトの問いは意味が分からなかったので無視した。トースト美味かった。伝わりっこないだろうが、心の中では感謝を述べてやった |