▼こどもにやれること *14話以前 世話になりっぱなしは自分が納得しない。 今の自分にも出来る可能なことを最大限やる。 それが5歳のローが己に課した目標だった。 保護者であるトリトが聞けば「そんな無茶しないでよろしいから!!」と慌てて辞めさせたであろう。しかしこれはあくまでローの内心に秘めた事であり外には一切他言していない トリトはバイトと大学の両立で疲れ気味、いや、疲れている。それは生活を共にしていれば自ずと悟れることだ ローはトリトに多大な感謝をしている。それに、世話を見てくれている人物、と言う以外でもトリトという男がローは好きだった。絶対、ぜったいに口には出来ないことだけれど、気を許せる人で この甘い蜜に浸かったままではいずれトリトに見限られるかもしれない。 出て行ってくれ、と言われないように、 優しいトリトを怒らせてしまわないように、 それだけが全てで 「…よし」 ともかく今現在ローの前に積まれている問題で一番重要視すべきことは"留守番"だ これはトリトがローを"信用"して任してくれている大切なことでこれをキッチリこなさなければ他は全てが無駄になる トリトが住んでいるこの世界は、元いたローの世界よりも平和であると言えるが安全ではない。最近見えるようになったTVのニュースでは連日、強盗や空き巣の被害を受けた住宅の話が流れていて、いつこの家が狙われるのか、と他人事にして笑えはできない 万が一にこの家に強盗が押しかけようものなら、躊躇いなく"能力"を使う気持ちがある。他人に気味悪がられようとその他人がトリトでなければ良い話だ 次にローはトリトが家に帰って来てからすることを思い浮かべてみた。 帰ってきたトリトはまずローにただいまを言う。それから着ていた上着を洗濯機に放り込んでから、ベランダに出て洗濯物を取り込んで…… 「…せんたくもの」 そうだ、まずは洗濯を取り込んであげるところから始めよう 「……」 しかし洗濯物が吊り下がっている竿と地上までの高さが子どものローには幾分高い設計になっている。背伸びをすれば届くだろうか、と試しに足を伸ばして洗濯物を掴んでみた 「わーー、っ!」 つんのめってこけた。 掴んでいた洗濯物も引っ張られ、バサバサとローの上に落ちて来る。 …後で台のようなものを用意しよう。そうすれば手がちゃんと届く。これで洗濯物を取り込むことは出来る。次だ 次に留守番中の留意点として問題なのは"来客者"の存在である これについては以前からトリトに「出なくてもいいからな」と言われていて、対人にまだ好意的でないローにはありがたい話だったが、一つだけトリトが困った顔をする時がある。 それは、ポストに入れられた"フザイヒョウ"のことだ それを手にした時、トリトはいつも「あー…」と言った顔をする。理由を訊けば、それは、トリトの家に荷物を持ってきた人間がトリトが家にいないと判断すると置いて行く紙で、その紙に連絡して再度都合のいい時間、つまりトリトが家にいる間に持って来てもらうようにすることが出来るらしい。その連絡が、少し億劫なんだ、とトリトは言っていた。 つまり、ローがその荷物とやらを受け取れば、トリトが"億劫"だと感じることはなくなると言うわけだ これに関しても問題はないと思う。荷物を持った人間はそうそうやっては来ない。頻繁に来られさえしなければローにだって対応することが出来る筈だ、とローはうんと頷いた。イメージトレーニングをしておけばいい。大丈夫。荷物を運んでくる人間とするやり取りなら、トリトがやっているのを何度も見たことがあるから 「…荷物もってくるやつはだいじょうぶ、だけど…」 他の人間であれば無視でいいだろう。 次だ 後はローがなるべく食べ物の好き嫌いを我慢すればいい。トリトが出してくれる料理に難癖つけるほど分別のない子どもではないつもりだし、トリトもローの嫌うものはなるべく出さないように配慮してくれているし、やさしいし。 今以上に勉強も頑張ればじきに漢字も読めるようになるし、計算だって完璧に出来るようになる。知識は忘れないし、努力を惜しむつもりもない。疲れて帰ってくるトリトに少しでも休んでもらうために夕食後の勉強の時間を減らした。少し寂しかったけど、あまりワガママを言っていい立場でないことも解ってる 昔は夜にも起きて本を読んでいたけど、今はトリトと一緒に寝る夜が楽しいからもう止めた。だから不健康そうに見えてた隈も取れた これをやっていればトリトに迷惑はかからないんだ ローは改めて自分のするべきことを頭に詰め込んだ。大丈夫、出来ることばかりしかない 「トリトに、ほめてもらうんだ…」 出来れば、褒めてくれる時には笑ってほしい トリトの笑顔は見てて心が温かくなるから あぁ、今日もトリトの帰りが遅い。 また疲れきった顔をして帰ってくるのかな 溜め込まないように、させないと、 「ロー、ただいまー」 「オカエリ、トリト」 おつかれ、さま mae | tsugi |