▼唇から伝染する 「ロ〜、ほっぺ触ってもいいか〜?」 「い、いやに決まってるだろ!はーなーれーろ!」 「ふふん、ロー如きの力でオレの身体を押し返せると思ってるのかー?」 「"ROOM"!!!」 「あああああごめんすまんローごめんすまん!!!」 「この…っ、 酔っぱらい!」 酒を飲んで酔っ払ったトリトが、小さなローを腕に閉じ込めて来るのに、ローは頬を染めながらも抵抗した。サークルの中に閉じ込めて脅せば、顔を真っ青にさせたトリトがローの頬を拘束していた両手を放して謝罪を繰り返す。 先ほどまでトリトの手が置かれていた場所を手で押さえながら、ローは尚も真っ赤になったままトリトを罵倒する。酔っ払いは、タチが悪い!しかもそれがトリトだなんて! 「手酷いなーロー…オレは今傷心中なんだぞー?」 「そ、それがなんだよ」 「少しは慰めてくれー」 いつものように学校とバイトから帰って来たトリトの姿が消沈していたのにはすぐに気付いた 夕食の後に、普段ならば決して飲まないのに、冷蔵庫の中のチューハイやらビールやらを取り出してきた姿にも驚く。程なくして、テーブルの上が缶で溢れ返った ローが無関心を装いながらも、トリトがどうしてこうなったのかを問い質すと、 「バイト先でめっちゃ腹立つ客がいてそいつのせいで店長にしこたま怒られた」からとのこと 自分の知らないところでトリトが困った目に遭っていた。それはとても腹が立つことだが、だからと言ってこのまま酔っ払いと化したトリトに襲われるのも心臓が耐えられそうにない。どうにかしてトリトの機嫌を治せばいい。そう考えたローは、意を決す 「……な、なぐさめるって、何したらいいんだ」 「え?本当に慰めてくれるのか?」 「、トリトが、言っただろ!」 「そうだが………言ってみるもんだな」 そうだなー…、酔いが頭までしっかり回っているせいと、ローからの思わぬ素直な申し出にトリトの顔はニヤついている 自分から宣言したことだから、もう後には引けない。だけど何を言われるんだろうとローはドキドキしている。さっきのように、また頬を触ることを要求されてしまったら、素直に差し出せるだろうか 「うん、それじゃあな」 「…う、」 「ほっぺに」 「っ!」 「キスしてほしい」 「 は!?」 想像していた要求の、遥か上を行くものがきた 「よし、遠慮しないでいいぞ。どーんと来い」 そう言ってローの身長に合わせるように背を深く曲げたトリトの顔、と言うか頬が、ローの前に差し出される 「なんでこんな…!まだよっぱらってるだろ!」 「ん?何でもやるって言っただろ?」 「な、なんでも、とは、いってない!」 「たまにはホッペにチューするイベントがあってもいいと思うんだオレ。ほら、早く。腰が痛い」 「…!!」 可哀想に。 ローの顔は今まで見たことないぐらいに赤く色づいていた。 そのローの様子に、トリトは既に大満足だった。たまにはローをからかって癒されたくなる時もある。 うそうそ、冗談だよ。お前をからかってみただけなんだ。怒るなよ? そう言ってやろう。「嘘うそ」の「う」とトリトが口を開こうとした瞬間、トリトの左側の頬に柔らかい何かが押し付けられた 「………うえ?」 「こ、こ、これで、満足か!ばかトリト!!」 「………おおー」 「!なんだよその気の抜けたへんじは!」 「い…いやだってな、」 まさか、本当にしてくれるとは 今度はトリトが染まる番だった。同時に、言いようのない疼きにおそわれる 「なんだよもー!ローおまえ可愛すぎるだろちくしょー!!」 「だきつくな!」 「ありがとな!元気出た!」 「!」 トリトがそう言うのなら、してやった事と羞恥に襲われた甲斐はあった。が 「お礼にオレもしてやろう!」 「!?い、いい!バカ!」 「遠慮するな!」 「…!?うぁ、っ」 唇が触れた箇所を思わず手で押さえてしまった。そのまま立ち尽くしてしまったローは、 またもやトリトの腕の中に捕まえられてしまいこの恥ずかしい気持ちから逃げ出すことも叶わなくなった |