愛情構築 | ナノ
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▼22


なにやら熱烈な愛の告白をかまされたような気がしたが、かましてくれた本人がもう寝てしまったのだから仕方ない。恥ずかしさのあまりに狸寝入りしているだけかもしれないが、オレは大人なのでスルーしてあげるんだ。寝息のリズムがおかしいぞロー。恥ずかしいかロー。恥ずかしがってるんだなロー。そうかそうか、オレは嬉しかったぞ、ロー。安心したぞ、 ロー


こんなオレでも、立派に1人の子どもの面倒を看て、その子に好かれてるなんてハナマルだ。良かった。これでこれからも、堂々とローの保護者名乗っていける



「おやすみ、ロー」
「・・・・・・・・おやすみ」



まったく、かわいいなオレのローは




















寝付いたタイミングがアレだったからなのか、深夜3時20分と言う何ともな時間にローは目が覚めた。
隣で寝ているトリトのバカ丸出しの寝顔にニヤっと笑い、寝なおそうとしたが、喉が渇いていることに気付いた。
隣を起こさないようにゆっくりとベッドを降りる。雑誌や教科書やCDやらが乱雑に散らかってる諸々を踏まないように、そろそろと床を歩く



「……!?」



しかし何かを踏んづけてローは転んだ。何にもぶつからず、頭もぶつけずだったのが幸いか。
ローは自分を転ばせた元凶を掴む。それはトリトのネクタイ。『就活中』のトリトがたまに着ているスーツに付いているストライプの入った紺色ネクタイだった。

こんなものに転ばされたのかと苛立ったが、あまり触る機会のなかったソレに興味はあった。意外に手触りがいい。グルグルと腕に巻きつけ戯れながら、キッチンにたどり着く
水音で起こさないように気をつけながらコップの水を飲み干すと、喉の渇きは潤った。
ふぅ、と一息ついて、さぁ寝なおそう、と踵を返したローの体が固まった



「……… は?」






足が動かないのだ。

前に行こうとしているのに、足が前に出ない。

なぜだ。

慌てて足元を見る。

ローは、叫び声を上げた





「う、うわああぁあああ!」




「    ――ロー!?どうした!」



今の叫び声でトリトが飛び起きた。
トリトに、ローは手を伸ばす


たすけてトリト、あしが



「あ…あし、が…!消えて、…!」
「…!?ロ、」



足が、消えかかっているのだ。足首までだったそれが、今では膝にまで侵食している。意味が分からない。粒子のように消えていく自分の足を見ながら、ローはガクガクと震える
得体の知れない恐怖が、今自分の身を間違いなくどうにかしてやろうと襲っているのだ



「トリト!、トリト!!」
「お、落ち着け、ロー!今、助けてやるから、」



どうやって助けたらいいかなんて、口から出したことを無責任に、守れないなんて嫌だ
縋るように伸ばされたローの手を握り締める。それしかやれない、他に何をすればいい、そもそもこれは何だ、信じられないことが自分の目の前で起きている。人の体が、粒子と化して消えかかっているなど、聞いたことないぞ



「いやだ、トリト、もしかして、オレ、もどるのかな」
「戻る…?  ……!!」



そうか、ローのこれは、元の世界に、帰ろうとしているのか

ならば喜ぶべきではないのか(いやちがう、ローは帰りたくないと言った)
涙を流して縋り付いてくるローに笑いかければいいのではないか(ちがう、ローは、ここにいたいと言った。この涙は、拭わなければならない涙だ)


だが、しかし



「嫌だ嫌だイヤだトリト!!オレは、オレは…!!」
「ロー…!  泣くな!!」
「!!」
「お前は、帰ろうとしてるんだ。きっともう会うことはないと思う」
「!や……」
「だから、泣き顔のままでいるな!」


最後に見るローの表情が泣き顔だなんて嫌すぎる
その顔ばかりが頭に残って、お前の見せてくれた笑顔を思い出せなくなってしまう


掴んだローの腕に何故か自分のネクタイが巻かれていることにトリトは気付く。ローは、ネクタイの存在などすっかり忘れていた
フッと笑い、トリトはそのネクタイを擦った



「出会いが突然だったから、別れも突然かとは思ったが…本当に突然だったな」
「トリト…!オレ、オレ、!」
「ロー、オレはお前が大好きだ」
「っ!」



もう腰元まで消えかかり、伸ばしていた腕も粒子になってしまったローの顔から涙が止まる



「子どもとしてでなく、保護対象とかでもなく、オレは1人の人間として、ロー、お前のことを愛してる。」



こんなの彼女にだって言ったことないぞ、とトリトは笑う。
だからお前は、これからも胸を張って生きていけばいい。周りがどうだろうと何だろうと、お前をお前として愛してくれる人間は、オレ以外にもきっと見つかる筈だ。だってローは、こんなにも良い子だから。オレが保証する。間違いない


この2年で、すっかり緩くなったローの表情筋は、泣き顔さえも容易く晒すようになった
とめどなく溢れてくる涙を止められない。止め方が分からない



「だから、あっちに戻っても、オレのこと忘れないでくれたら嬉しい」



最後まで、あのトリト特有の笑顔でそんなこと言うコイツに腹が立った



「そんなの…!当たり前だバカ!!!オレも、オレもトリトのこと大好きだ!!悪いのか!!」
「、そうか……… あ?あれ、はは、なんでオレまで泣かなきゃいけねぇんだ…」
「トリト…!!」



自分を初めて愛してくれた愛しい名前



「元気でな、ロー 今までありがとう」




こっちこそ、言いかけたまま不自然な形で止まったローの顔は、泣き顔の酷い笑顔だった










完璧にそこから消えたローのいた場所に、涙が一粒ぽとり




「………あーあ……」




とても、静かになった