▼16 おちつけ、おちつけ、落ち着け、オレ からだがバラバラだ 首 腕 手 腰 足 ぜんぶだ だけど痛みはない まったくない 毛ほども痛くない 血もでてない 何もでてない ローがおかしい 泣いてる あのローが 手の隙間からなみだこぼれてる そういえば、さっきローの手が動いた なんかされた そしたらおれの身体が バラバラ に 「うっ、あ、あっ、うぅ、っ、ふっ」 「ろ、ロー なぁおい、」 「うっ!う、うわあああ、ああああっ」 「ロー、ロー」 さっきまでの怒鳴り声は出せない とてつもなく情けない声でローの名前を呼ぶことしかできない 手を動かしてるつもりなのに手は動かない 当たり前だバラバラにされてる ローが泣いている 間違いなく俺のせいで泣いているのに、早くその涙を拭ってやらんといけない気がする 誰かが拭ってくれるまでずっと泣いていそうな涙だ 「ロー、ロー」 「っ、あ、えっ、うぅっ、」 「ごめん、ごめんロー 言いすぎた ごめん」 「えっ、うあっ、トリト、トリト、」 「あぁごめんな、ごめんなロー、オレちょっと疲れてて、イライラしてただけで、ロー」 「トリト、トリト、や、うっぅ、っく」 いつも頭に被っているローの帽子がずり落ちてローの目を覆い隠してしまった トリトは自分の体の現状をこの際置いておくことにした。痛くもないし命の危険も感じないそんなことより目の前のローだ 酷く怯え悲しませてしまった 自分を殴りたい。あんな事言うつもりじゃなかった、こんな、5歳の子どもに、 「ごめんロー、本当に 怯えさせてごめん、さっきのは、」 「っ、トリト、」 「え、なんだ?」 「ごめん、」 「な、 ちがう お前は謝らなくたっていいんだ」 「おれ、のほうこそ、ごめん あまえてたんだ、トリトに」 「ロ、」 「あっちで、おれ、だれかにあまえたことなくて、あまやかしてくれたこと、ないし、いつもひとりでいて、まわりにだれもいなくて、だから、こっちに来たときも、トリト見て、オレのこと、気にかけてくれるひとができて、あまえてた、ごめん、ごめんなさいトリト」 「ロー!あやまるなって、別におれは」 「 でも、これからも、トリトにあまえたい」 「 え」 「トリトがこまってるの、知らなかった、ごめん、さっき言われて知ったけど、でもやっぱり、いやだ 困らせるの分かってる、でもオレ、トリトにあまえてたい」 「……ロー…」 「トリトをこまらせてる、だからここにいちゃいけないんだ、」 「!ちが、」 「こまらせるの、わかった!でも、いやだ!」 ローはもう涙を手で隠そうとしなかった 顔から出るモン全部出した、いつものローらしくない、みっともない顔を曝け出して、床に転がるトリトの頭部を手で抱きしめる。妙な感覚がトリトを包んだ 「おれ、のうりょくしゃなんだ あんまり使いこなせてないけど、こうやって、人でもなんでもバラバラにできる」 「能力者…?」 「きもちわるいだろ?」 「気持ち悪くなんか、!」 ない、とも言い切れないが、口を無理矢理に叱咤して動かして否定しなければ、ローがまた傷つくと思った 「こんな得たいの知れないやつがそばにいたら、めいわくだろ?」 「だから、ロー、それは」 「でもやめない」 ローは先ほどから繰り返してきた謝罪と、「でも、」の後の否定文を言い続ける 「迷惑かけるってわかってても、やめない ここにいたい、オレは、トリトにしか甘えられないから」 「……」 「能力のこと、隠しててごめん。ぜんぶ話すから、また困らせるかもしれないけど、」 そばにいさせてください、 ガラガラに枯れた声色で伝えられた言葉に、トリトはついに涙を一筋流してしまった |