▼10 ローがウチの家に住むようになって数ヶ月経ち、ローと過ごす初めての夏が来た いつもこの時期になると開催される花火大会はウチのマンションから観ることが出来るから、ローを誘ったのだ 決して広くはないウチのベランダだけど、ローと2人で夕涼みするくらいには丁度いい 涼みながら飲めばいいと渡したコーラの缶をぎゅっと握ったまま、ローは夜空に夢中だ ローの横顔ばかりをいつまでも見つめているわけにはいかないな。持っていたビール缶を足元に置いて、トリトもローと同じく夜空を見上げた 「花火、綺麗だろ?」 「…………あぁ……」 花火がどんなものか知らないローがいて、 近所の川原で市が開催する花火祭りがあるのなら、 ローに見せない理由がない ――詳しくはオレも分からないが、色とりどりの火薬が夜空で爆発する ――なんだそれ、そんなのが本当に綺麗なのか? 説明が悪かった。それは謝ろう。だが花火と言うものは百聞一見に如かず、とトリトは思っている。語彙力がないとかそう言うのではない 赤青黄緑紫白桃 今年は去年に比べて豪勢だ 打ち上げる花火の数も大幅に増やしたと言うし、天気は雲1つないいい夜 全てが上出来だ。ローに見せる最初の花火として申し分ない 空気が抜けるような音を発しながら、一際大きな火の玉が夜空を駆け上がって行く あ、これはデカイな。隣のローは呆けたように口を開いたままだ そしてベランダを揺らすような轟音と一緒に、巨大な花が開いた 「―うおおお!でけぇ!」 「…!」 「腹の奥がビリビリするなロー!」 「あ、あぁ…!」 驚いたからって自分の腹押さえなくても痛みは襲ってこないんだぞ、ロー 「お、今度は水面近くで小さいのを連発するみたいだな」 「………」 「はは、そのままじゃ手摺が邪魔して見えにくいなぁロー?」 「っう、うるさい」 身長の低いローの前にはオレの腰程の柵が立ち塞がっている 忌々しそうに手摺を睨みつけるローには和むが、機嫌を損ねてしまっては勿体無い 「肩車してやっても、いいんだぞ?」 「…!な、か、肩車!?」 「肩車だ。 ほら、早くしないと花火打ち上げられちまうぞ」 「…〜っ! しゃ、しゃがめ」 「はいよ」 知らないことへの好奇心が旺盛な性格で良かったな、ロー おかげでジレンマしてる時間が短くなった ローの脇に手を入れて、「よいしょ」の掛け声で肩に乗せる 首に回った小さな足を掴んで、視界が高くなったローが興奮して落ちてしまわないように一歩半だけ手摺から離れる 丁度いいタイミングで花火が再開された。空に上がった花火が水面に反射して綺麗だ ローから聞こえる感嘆の声に頬が緩む 誰かの何かの初めてを与える役目は、楽しいものだ 「見えてるか?ロー」 「……うん」 「綺麗だな」 「…うん」 「楽しいか?」 「 うん」 オレもだよロー |