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「#幼馴染」のBL小説を読む
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▼ 没する影

俺の前に、誰か立ってる



三角座りし膝に顔を埋めてるせいで上は見れないが、辛うじて見える床に、誰かの足が見える
船員達の呻き声や泣き声なんかをずっと耳にしてたらいつの間にか寝ていたらしい
辺りはシンとし、船員達は皆雑魚寝している。その輪から少し離れ、壁に寄りかかっていた俺の目の前に、誰かの脚
船室は暗く、壁の窓からいつも射す月光も今は雲に隠されているのか明かりもない
輪郭の掴めないその足は、裸足だった



船員ならば、俺を見おろして黙ったまま何をやってるんだ。寝ているからと遠慮しているのなら、気にしないから声を掛けてくれ
なのに黙ったまま見下ろしているのはなぜだ
誰だ、誰だお前
まさか寝ぼけているのか?とも考えたが、生憎生まれてから一度も寝ぼけたことなんてない。起き立ちはすぐに覚醒するのがウリなんだ


このまま黙って立て続けていられるのも…。来ないならこちらから動くしかない
思い切って顔を上げようとした、が






「………ナマエ」

「―――!?」




聞こえてきた声に勢いよく食いつきすぎて首を攣った
しかし先ほどから見えていた足の主はちゃんと視界に入った



「……エース…!?」

「おう、エースだ」


「おま…な…、ど……え…」
「悪かったなナマエ 起こしちまったか?」
「い、いや……き、気にすんな……」
「よかった」



ニシシと歯を見せて満面に笑う、目の前の  エース


前言撤回だ。
やはり俺は寝ぼけているのかもしれない。
俺にだって、たまにはそんな日だってあるかもしれない。
寝ぼけているのか、現実なのか、夢なのか、



「エース…どうしたんだ?」
「ん? いや別に、ナマエの顔が見たいなーって」
「……は…はは、そうか、そうだな。 まったく、お前はいつまで経ってもガキだな」
「…それは言わない約束だぞ」
「そうだったな。お前が俺の恋人になりたいと言った時に課してきた、条件だったか」
「ナマエは俺より5歳も上だから、殊更ガキ扱いされたくないんだ」
「はは、そうか、はは」
「さっきから笑いすぎだぞナマエ 皆起きちまうだろ」
「すまん、はは」



エースが、いつものエース過ぎて笑ってしまう
ムスっと拗ねる顔も、俺の前でだけ子どもらしくなるのも、いつものエースだ



「はは…エース、俺な」
「ん?」
「悪い夢を見てたんだ」
「マジかよ。どんな?」
「…言わないよ、お前には」
「はー?言えよ、気になる!」
「言わない言わない」
「おい!」



夢だ。そうだ夢だった。なんて性質の悪い悪夢
今日のあの出来事は全部夢だ。そうだったんだ

教えない俺に痺れを切らしたエースが「おいー!」と言いながらタックルしてきたので、すかさずその身体を抱きしめ返す。感触もする、温かい。エースだ。エースの温度だ

教えてもいいかもしれない。だってエースに話しても、きっとエースは笑い話にしてくれる。あのな、怒るなよ?お前が死ぬ夢を見たんだ。そう言おうと思ってふと顔を動かせば、抱きついてきているエースの足が目に入る。そう言えばお前、どうして裸足なんだ?開こうとした口は、「あ」の形で固まった。ようやく雲から顔を出した月の光が射しこんできた船室。明瞭になった視界。



エースの裸足の足に、影がない







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