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▼ 9

そして翌日、人魚さんの入った水槽の護送に買って出たナマエの付き添いで海岸にやって来ていたおれは、とても面倒くさがっている顔をしているんだろう。頻りに「もうお別れなのに最後までその顔はなに!」と人魚さんに口やかましく言われ続けていた


「何だか、短い間だったね」
「今度はもう海に落ちて来ないようにね」
「うん、気をつけるよナマエちゃん」
「ヒエヒエももう海面凍らせないでね!」
「善処しまーす」
「もうっ!」


水槽から出た人魚さんは、久しぶりの海に感極まっているらしい。目尻に涙が浮かんでいた。不可抗力とは言え、彼女から数日間海を奪っていたことを謝るぐらいのことはしても良いか


「…ね、ヒエヒエ」
「ん?なに?別れのキスならしてもいいよ」
「しないわよ!
昨日のヒエヒエの話、私が人間じゃないから理解し難かったところもあるかもしれないけど、でも私はヒエヒエの言った言葉はやっぱり変だと思うわ」
「…それで?」
「もし、もしよ?ヒエヒエもソレが、"オカシイ"って思ってるなら、無理に従わないで海軍なんて仕事、辞めちゃえば良いのよ!」
「!」
「な、何言い出すんだナマエちゃん?!」


"辞めちゃえばいい"
そんなこと言われたの、初めてだな


「…もしおれが海軍辞めたら、おれは何をしたらいーのよ」
「クザンさん!?」
「私の国に来たらいいわ!美人のおネーサン達がいっぱいいるわよ」
「あちゃー。それは惹かれるけど、おれ海に入れないんだよ」
「え?なぜ?」
「知らない?おれ能力者だよ。能力者は、海に嫌われるんだ」


だから無理だね折角の女の子からの誘いなのに

そう返せば、人魚さんはキョトンとして、次に心底残念そうな顔をした


「えーっ!?そうなの?
なんて勿体無いの!海は、こんなに広くて、自由なのに!」



両手を大きく拡げて、海面を泳ぐナマエの姿は、確かにとても自由に映った


「…そうか。おれ、こんなに海の近くにいるのに、海のことなんにも分かってないからなぁ」
「でも安心しなさい!カナヅチでも海中で泳げる方法は幾らでもあるのよ!」
「…え?そうなの?」
「そうよ!だから、また今度ナマエも連れて私を発見した辺りの海に来たら、私が連れて行ってあげる!」
「人魚さん、いつもあの辺り遊泳してんの?危なくない?」
「危なくないわ。わたし、人間が大好きだもの!」


じゃあ、私もう行くわね。ナマエも、ヒエヒエも、医師の皆さんも短い間だったけど、どうもありがとう!

そう言って、ナマエはヒレを翻して海中に姿を消した
あんなに邪険にされてたから嫌われていると思っていたが、思いの外そうではなかったらしい


いつか海軍を辞めたら、か

確かにその時は、人魚さんにまた会いに行くのも良いかもしれねぇよなぁ


「クザンさん、妙なことは考えずに、明日のことに集中してくださいね」
「あーーー…はいはい」
「忘れてましたねクザンさん!!」


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