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「#幼馴染」のBL小説を読む
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▼ 今日あるはずの世界も消えました

次の日、朝から海は大荒れだった。海だけではない。国全体が酷い大嵐に見舞われている
薙ぎ倒される小船や軒先、ガタガタと激しく雨風に襲われる家屋
人々は外から姿を消し、家の中で身を寄せ合い嵐が収まるのを待っているようだ

疑問だったのは、その誰も彼もが口々に「姫様」「ひめさま」「姫様」「ひめさま」「おはやく、」と呟いていたこと。
どう言う意味なのだろう。姫様が、どうなされたと言うんだ?
しかしその人々の言葉を気にする余裕は今のコビーにはなく、嵐に流されてしまわないように船を御することが手一杯だった













どれくらい経ったか。満身創痍になりながらも、ようよう守りきった船の上で仲間達全員で安堵の息を吐けたことは奇跡だった。
大嵐が、ピタリと止んだのだ。あのまま続いていれば、もしかしたら船は大破し、コビー達は全員海に投げ出され、町も大被害を被っていただろう
昨日、姫様に言われて船に残っていたままで良かった。
もしも船から離れていれば、手配が行き届かず一隻二隻は駄目にしていただろう




暗く重い雲が嘘のように晴れていき、陽光が町に城に差し込んでいく
ぞろぞろと家屋から人々が顔を出してきた。しかし、折角嵐は去ったと言うのにどうしてだろう、町の人々の顔は、死んだように重い。泣いている者までいる



「う…っ、うぅ…!」
「ひ…さま、…!」
「ナマエ、ひめさまぁ…!」



うわあああああああ!誰かが堰を切ったように喚きだせば、呼応したかのように民達が泣き出す。呆気に取られたコビーやヘルメッポや海兵はポカンと口を開けたままだ。破損した船の修理をしたい、木材を貸し与えてくれ。とてもそう言いだせる雰囲気ではない。
しかしコビーは、泣き崩れる女の肩を引いた。一体、姫様が、どうしたと言うのか




「ひめ、さまは…雨神様を…鎮めるために…!」
「…あめがみ、さま…?」





雨神とは俗称で――正式には海王類の一種で龍の姿をしたワノクニ近海の海の主
――普段は深く海底の奥底で眠りに就き、一度目を覚ませばその強大な力で海に山にと嵐を起こす凶悪な海の神
――何十年かに一度の目覚めで起きる大嵐は全てを薙ぎ倒すまで収まらない
――その海王類を鎮め、再び眠りに就かすには"人柱"が要る
――代々の城主の家系に生まれる成人していない女児に科せられる








「……人柱…!?じゃあ、姫様は…!」


「うぅ…っ、ひめさまぁ…!」
「ナマエ姫様…!!なぜ、姫様の生まれた時代なのだ、雨神様…!」
「姫様は、何も悪いことなんてしないないのに…」




待て
自分達がワノクニに遠征任務で来たのは、近海の海を縄張りとする海王類の討伐ではなかったのか
それが、どうして、こうなってしまったんだ




「姫様!!!」




海王類の姿を確認出来ないままこの国にのうのうと身を置いて10日
我々がその雨神とやらを討てば、姫様はこうならずに済んだのではないか
「期待しておるぞ異国の海軍よ」「じゃが無理はするでないぞコビー?」そう言ってくれたのは城主様と姫様だ
無理どころか、自分達は何もしていない。何も出来なかった。無力すぎる
掲げた正義が、チッポケに感じて仕方ない





「姫様あああああ!!!」




海に叫ぶ



小さな貴女は

ぼくたちを怨むだろうか





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