OPSeries | ナノ
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


▼ 夢で君を呼ぶ2

ホーキンスは読んでいた書物に栞を挟み、そろそろ寝るかとページを閉じた。
他の船内は静かだ。殆どの者達が仮眠を取って休んでいる頃だろう。予定就寝時間より大幅に過ぎてしまったが、ようやくホーキンスも床に着くべく寝間着へと着替えた。

布団に潜る前に、昼に話したナマエとの会話を思い出す。
クルー達を悩ませている夢魔の正体。"サキュバス"と呼ばれる女の姿をしていたが、また今夜もやって来るだろうか。効力のあった札はクルーに渡しているが、あれがなくともどうにかなるだろうと考えて眼を閉じる。折角誘ったのに申し出を断ったナマエの間抜け面を思い出しながら








ズズズズ……ズズ、ズ………

何かが何かを引き摺っている音がする。
気色悪い音だ。
耳朶の奥にへばり付いて聞こえるようなくぐもった音
「五月蝿い」と言ってやろうか。だがおれの口は開かなかった。
何故だ、と思ってみると、いや、よく感じてみるんだホーキンス

引き摺られているのは、お前だぞ



「…?」


右足を掴まれ引き摺られているのは自分だった。時々何かに引っかかって髪が千切れて行く。上半身を半端に起こして引き摺っている主の姿を見てみれば、それはいつぞやの夢魔だった。相変わらず悪魔のような表情をしている。いや、真に悪魔なのだろう。この行動に気が付いて向けた顔はとても女のするそれではない。



『…起きた』
「行動理由は分からんが、放してもらおうか。それとウチのクルー達の迷惑だ。即刻消えてくれ」
『起きた』
「? おい…」


『ねえどうしてあんたは他の人間たちと違うの?どうしてあんたは甘くないの?苦しいの?なんでわたしの首をあんたは絞められるの?殺そうとしてる?わたしのことねえお願いやめてわたし死にたくないの他の男たちのアソコはとっても甘かったのにあんたは美味しくないのいや、いや、消えてよねえお願いこんな筈じゃなかったじゃないわたしを此処に呼んだのはあんたたちの誰かでしょ?どうしてあんなことをしたの?人間だって首を絞められたら息が出来なくなって死んじゃうでしょう?わたしだって同じよ死んじゃうの息できなくなるの呼吸したいの!ねえあんたは怖いわ。恐ろしい。変な人間よ。あんたみたいなのが今後も生きてたらきっと他の奴らもわたしのような目に遭わされちゃうわあんたは危険よ今すぐ死ぬべきなんだって!ねえ!ねえ!!!お願いだから死ねよなあ!!!』



夢魔は喧しく騒ぎ立てる。金切り声を上げ、見た目が女だとは思えない力でホーキンスの身体を宙に放り投げた。

「ぐっ…!」

力強く地面に叩きつけられて肺が痛む。喉にも衝撃が来て上手く気道を確保出来ない。
ひゅぅ、ひゅうと隙間風のような息を吐いていると、夢魔は片手で自身の髪の毛をかき上げながら、その下にある赤い目をギラギラ輝かせてホーキンスを睨む。



『あーあまさかこんなにやばい男だと思わなかった。 男のくせに好きな人が出て来て自分に愛を囁いてくれるような乙女みたいな夢を見てたから、てっきり軟弱な野郎だと思ってたのに!』


あの時の夢のことを言っているのか。
ホーキンスの脳裏に夢の内容がフラッシュバックする



―――ナマエ



「……夢の、中でぐらい、許されたって良いだろう」


どうせ現実のあいつは、おれの事などどうとも思っていない



口を開いたのが許せなかったのか、夢魔はずっと強い眼差しでホーキンスを睨みつけて趣味の悪いマニュキアを施した長い爪を突き立てた。
身体を横に避けるが、頬を掠められ一筋の血が伝って行く。おかしい。この間よりも、身体が重たく感じる。



『あんたは殺す!!』


「…!」



 夢の中で死んでしまえば、一体どうなるのだろう 



場違いに呑気なことを考えたホーキンスの耳に、愛しい人の声が飛び込んで来た




「――ホーキンス船長!!!」



瞬間、何かの力によって意識が上へと引っ張られる。なんだ、と思う暇もなくホーキンスの手を強く握った手の主は再度ホーキンスの名前を呼んだ。「起きてくださいホーキンス船長!」――ナマエ、
夢魔が追い縋る。憎々しげな表情で何事かを叫んでいた。しかし聞こえない。







パチッ! 音を立てて目を見開いたホーキンスを覗き込んで来ている一つの顔



「よ、良かった…!」
「……ナマエ…?何を……」

ナマエはあー、と言葉を濁し頭を掻く

「いや、すっげぇ恥ずかしい理由なんで…あんまり、その…」
「…?」
「……あー!だからですね!な、なんとなく!ホーキンス船長が俺を呼んでいるような気がしたので様子を見に来たんです!ごめんなさいでした!」


でも来てみたらホーキンス船長すっげぇ魘されてたんで、俺のこの行動も許されますよね?ね!?


呆けているホーキンスが怒っているんじゃ、と勘違いしているのだろう、ナマエは聞いてもいないのに言い訳や理由を並べ立てている。

――ナマエが、おれを

意識し出してくると、途轍もない恥ずかしさがホーキンスを襲った。
バッと顔を下に向ける。ナマエが「えぇ!?」どうしたんですか船長!と気遣わしげな声で呼んで来た。



「……なんでもない」


夢魔に襲われたことなんてもうどうでも良かった。 やはり好きな人は、現実にいてくれる方が何倍も良い




prev / next