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▼ 隣人の恋人の計画

「ケツの青臭ぇガキ共に言い寄られてたりしねぇだろうな」


すっかり恒例の挨拶となってしまった台詞を 帰宅早々に吐いたローに「…ないからちょっと静かにしてろ。な?」と若干不機嫌気味に返してしまった事に対して俺は責められる謂れは無いと思うのだが。

俺の機嫌の悪さを察したローが、無言のままに顔を覗き込んで来る。その行動は可愛らしいのだが、今は極力邪魔をして欲しくなかった。
好きなだけ家にいても良い、だが少しじっとしておいてくれ。


「…あー、分かった。 期末試験作ってんだな、ナマエ」

「 正解」


そう。今の俺は再来週の末にある夏の期末試験の問題を作成しているところだった。今回は教科書の進み具合が全クラスを通して早く、出題出来る範囲がとても広い。出される学生の諸君等には地獄かも知れないが、作る方にだって地獄なのだ。なるべく傾向が偏らないようにと何度も何度も計画表と睨めっこをする。

ローがなかなか気付かなかったのも無理はない。高校生だったローに、同学校の教師が同学校生徒の前で堂々とテスト問題を作っているなんて様子は見せられないのだから。テスト問題作成期間及びテスト返却期間はローの出入りを禁じていた。 今のローに、それらは当て嵌まらない。今年の春から、ローは栄えある都内の医大生だ。高校で出されるテストをローが見ても、何の問題もない。…まあ全く問題がないわけではないが、ローはテスト情報を横流しするような輩ではない。信頼している


「……暇なんだが?」

「…本でも読んでいてくれ。テレビは付けないでくれよ」


顔は見えないが、ローがぶすくれている雰囲気は感じ取れた。伊達に人生の半分を共に過ごしていない。
だが、駄目だと強く言っておこう。こればっかりはやっておかなければならない仕事だからだ。


「………おれ、明日から、夏休み」

「……あぁ…、そうか。大学生は早いんだったな。良かったな」

「……………」


課題はキチンと終わらせておくんだぞ。
簡単な助言を伝えれば、ボカッと背後から後頭部を殴られた。「いたっ!?」なんだ、
殴られた箇所を押さえながら振り返ると、俺の正面に座っていたローが移動していた。
お前、いつの間に…。…ああしかもどうやらこれは、先ほどよりもとても機嫌を悪くしている。


「………ロー 何なんだ、一体」

「察せ」

「いや無理だ。話せ」

「…聞いてくれんのかよ」

「しょうがないからな」


「…何だよしょうがないって。」口調とは裏腹に少しだけ眉間の皺が取れたらしいローの単純さに思わず笑ってしまった。大学生になっても相変わらず、俺に弱いよなぁお前は。第二の拳が飛んで来そうだったので口を噤んだ。俺の言葉に促されたローはゆっくりと口を開く。どうやら夏休みの予定を話し合いたくて仕方がなかったみたいだ。


「長期の休みぐらい、ナマエも取れんだろ。知ってるんだからな、おれ」

「…まあな、高校だってテストが終われば夏休みに入るのはお前も忘れてないだろう」

「………いいんだろ?」

「? 何がだ?」

「…っ、だから!おれが大学生になったから!ナマエと、りょ、旅行とか行っても、世間的におかしくないからイイんだよな!?」



ローの羞恥はMAXに達したらしい。顔がかつてないぐらい茹蛸状態だ。聞いている此方にも伝染して来るレベルだった。いや現に移って来た。 何から正してやれば良いのか。教師としてなるべく落ち着いて言ってやりたかったのだが、どうも難しい。だがとにかく一番に言っておかなければならないことは…



「…たとえローが大学生だとしてもだな、おっさんと若い男2人が旅行なんておかしいと思われるのでは…」

「は!? "ローが高校生の内は旅行は無しだ"って言ってたのは何処のどいつだよ!お前だろうがナマエ!」

「わ、悪かったすまなかったロー だから頼む胸倉を掴むのは止してくれ!」

「おれがどんっっだけ大学生の長期休暇を待ってたと思ってんだ!連れてけナマエ!!」

「分かった旅行にでも何でも行こう!俺の試験計画表を引っくり返してくれるな!」


大変だ。ローが、とても暴力的な子になってしまったぞ。もしやと思うが、大学で悪い友人なんぞをこしらえていないよな?悪影響を受けているかも知れないなんて考えたくもないことだ。 暫し思考がトリップしていると再度、立っているローに胸倉を掴まれ揺さぶられる。本当に容赦が無い。


「ど、何処に行きたいんだローは それを教えてくれ」

「まず新幹線だ」

「…は? 新幹線…?」

「新幹線に乗って駅弁を買う。東北の方に行って雪景色を見つつ郷土料理に舌鼓を打って旅館に泊まりたい。露天風呂とやらを貸切にして二人っきりで湯船に浸かる。旅館が用意していた浴衣着て夜は旅館の土産物屋を見たい。 文句あるか?」


何ともまあアバウトなのか綿密なのか判断のつけ難い旅行計画をいつからか立てていたらしい。都会に住む人間が地方に抱いている憧れのようなものが全面的に押し出されている。いや、旅館ぐらいならば都内にだって上流のものは幾つかあるだろうが、ローの中では「東北」と「雪景色」が重要らしい。しかし言ってもいいだろうか、ロー。いくら北の方とは言えど季節は夏だ。夏に雪は、ない。



「バカ野郎かナマエは」

「な、何でだ」


重要なのはどう考えてもそこじゃねぇだろうが。…怒られてしまった。では何処だと言うのだろう



「"旅館"の"露天風呂"で"混浴"のとこだ!」

「…………ああ、なるほど。そこか」

「とぼけたこと言うな。そこか、じゃねぇぞ」

「いや、風呂に一緒に入るという行為ならば最近は毎日のようにやっているから反応しなかっあいたっ!!?」










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