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▼ 微解放

パンクハザードにて、麦わら海賊団と同盟を組んだトラファルガー・ローと共にサニー号へと乗船をしたナマエは、麦わらの一味と出会ってからも、協力してシーザー・クラウンを捕縛してからも、ローがドフラミンゴとの交渉を持ち出しているときにも、一言も声を発していなかった。

だがナマエの心は今、歓喜に満ち溢れていたのだ。




パンクハザードにてトラファルガー・ローの護衛と言う名目で身分を偽り潜伏任務に当たっていたナマエは、パンクハザードで随分とシーザー・クラウンにこき使われていた。一言も発さないのは声帯を失ったからなのか、病気か、それとも別の理由があるのかと興味を持ったシーザーに四六時中追い回されるような日々が続き、心身ともに参っていた。
何度かローに恨みがましい目を向けたこともある。シーザー・クラウンと言う人物がこれほどに面倒な性格をしているのなら、自分も他のクルーと一緒にゾウへ向かった方が良かったのに、と。その度にローは「お前は喋らないから抜擢されたんだぞ」と慰めになっていない言葉をかけるだけ。
この日々が後もう一年続けばナマエの精神はやつれていただろうと言う時分にようやくパンクハザードでの目的を達することが出来た。解放されたのだ。ナマエは、もし自分の表情筋が死んでいなければ満面の笑みを浮かべていたことだろう。

海楼石の手錠と共に、縄で縛られて大人しくしているシーザー・クラウンの姿を無表情で見下ろす。「ナマエ、恨みはあるだろうが危害は加えんなよ」分かっている。キャプテンに言われずともそれは重々承知済みだ。だからただ見ているだけ。「なに見てんだ!」とシーザー・クラウンが焦る姿を過去の姿と重ねて悦に浸っているだけなのだから。


それにしてもこのトニートニー・チョッパーなる船医、本当に腕が良い。
パンクハザードにいた子ども達の治療をしているのを見かけた時から思っていたが、あの短い手足でこれ程までに正確で素早い処置は素晴らしいのではないか。医療の知識は皆無だが、それぐらいはナマエにも推し量れた。



「…………」

「な、なんだよっ!そんなに見るなよ! 恥ずかしいだろこのやろー!」



…照れ屋なようだ。面白い生き物を見つけた、とばかりにナマエはチョッパーの前に屈みこむ。「えっ!?」さらにビクつかれた。不思議な生物だ。手だって蹄みたいなのがあるだけ。それで医療器具を持てるのか、すごい。帽子から角も生えてるぞ。触ってみる。硬い




「チョッパーずいぶん好かれたんだなー」

「いや見てるんじゃなくて助けてやれよルフィ!」



許してやってくれ、とローは思う。ナマエは今、開放感を満喫しているんだろう。命令で同行させたとは言え、ナマエには随分と我慢をさせて来ていた。それにナマエはああ見えて動物には興味を抱く男だ。ベポに対してもそうだったが、麦わらの船医のことも気に入ったらしい。物言わぬまま船医の身体をジロジロと観察している。船医の方は涙目だった。



「変な野郎だな」

「一言も喋らないわよね」


デッキで休んでいたナミの元へデザートを運ぶサンジの二人がそう称する。
麦わらの面々は、喋らないナマエを不審に思っているが追求はしない辺りこの海賊団の大らかさが分かる――「なあお前、何でずっと黙ったまんまなんだ??」……船長はそうではないようだ



「………」

チョッパーを見るのを止めたナマエが立ち上がった。問いかけて来たルフィの方を見て、まだ黙る。「ずっと黙ってて疲れねぇのか?」ナマエはフルフルと首を横に振った。「病気かなんかなのか?」シーザーと似たようなことを口にしたウソップにもナマエは首を振って否定するだけ。


「別の海賊船にいるから喋らないんじゃなくて、前からこんな感じなのか?」頷く。

「お前とトラ男って船長とクルーの関係、で良いんだよな?」頷く。 おれの玩具でもある、とローは会話を聞きながら心の内で修正を入れた。



「キャプテンの協力要請を聞き入れて頂けた事に感謝をしている。有難う」

「シャシャシャシャベッターッ!!?」

「おっなんだ話せるんじゃねぇか!」

「って言うか超イイ声してんだけど!!?」



「おいナマエ 誰が勝手に話して良いと言った」

「しかしキャプテン お礼は言っておくべきだと判断したので…」

「…ほらまた口を開いたな。 いいからお前は黙ってろ。また妙なモンに纏わりつかれたら迷惑だろ」



了解。頷いたナマエはベンチに腰掛けているローの脇に控えた。
それからウソップや、声を聞いていたナミやサンジらが今のは一体なんだどういうことだ!?と詰め寄ってくる。今の声は本当にこいつから出た声なのかと声を荒げて訊いて来る三名に、ローは本当もクソもあるかよと言う。



「コイツの声は少々"訳有り"なんでな。極力声音での会話は控えさせている」

「ナマエ、お前ようやく口開きやがったなー!!」

「…ガス野郎は黙ってろ」

「クソなんなんだ!地味な人間のくせにそんな声してたのか!」


ギャンギャンと吠え立てるシーザー 興奮したせいで傷口が開いたらしい。すぐにチョッパーの「あー!!」と言う怒りの声が上がった。


「……と言うわけで、誰かナマエに紙とペンを渡してくれ」

「紙とペン?」

「ナマエは筆談で会話すんのが本来のやり方なんだ」

「えっ!!それは勿体ねぇんじゃ…………」

「……――あ?勿体無い…?」

「…思わないですずびばぜん」


ローに睨まれたウソップが泣く。

そう、ナマエの声は、安売りするものではないのだ。
ナマエがハートの海賊団を選んだことによる特権なのだから。






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