OPSeries | ナノ
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


▼ 大丈夫、君の未来は

最初から料理が得意な奴なんていなかったし、そんな奴いないとサンジは昔から思っている


サンジがクソジジイと呼ぶ『オーナー・ゼフ』に認められるまでに沢山練習した
ゼフが各地から料理の出来る奴らを集め上げ、周りの年齢層が上がってきた頃
一番年下だったサンジは新しく来た男達から舐めてかかれる事もしばしばあった。
ましてや素直でない口の悪い性格。目を付けられる事もあったが、自分の料理の腕が上がればアイツ等も俺を舐めくさったりしないとサンジは考え、ひたすらに料理の練習に励んだ

そんなサンジの練習に付き合っていた、物好きな人間が1人いた。
ゼフを慕ってバラティエに働きに来た、ナマエと言う男だ



「ちょっと味付けが薄すぎるかもしれないね」
「そうか?何をどれくらい入れたらいい」
「それは自分で気付くべきだよ」
「……ナマエが味見役なんだから、教えてくれたっていいだろ」
「料理の事ではサンジを甘やかさないようにしてるんだ」



付き合うと言っても専ら味見役ばかりに名乗り出ていた男で、サンジより8歳年上なだけで他の男たちよりも料理の腕は高かった奴だ。ナマエが作った料理を食べ、軽く感動したこともある
的確なんだか曖昧なんだかよく分からない助言をサンジに与えていたナマエだけど、ナマエに言われた箇所をサンジが改善すれば「よく出来ました」と手放しに褒めてやっていた。いつもニコニコ笑っていて、声を荒げることもない優男かと思えば、店で暴れ始めた酔っ払いを一撃で床に叩き伏せてしまうような豪腕の持ち主でもある。出身は同じ北の海らしいけど、それ以外は教えてくれない。ナマエと言う男は明け透けなようで謎の多い人物だった



「僕はサンジの将来が凄く楽しみだよ」
「なんでだ?」
「だって、今の歳でこんなに美味しい料理を作れるんだよ?きっと、もっと大人になればメインコックにだってなれるさ」
「………でも、それをクソジジイに言ったら笑われたぞ」
「オーナーが笑ったって、僕は笑ってないだろう?」
「………それもそっか」





バラティエの中ではちょっとしか年齢が違わなかったから、サンジは勝手にナマエを兄と慕っていたのはココだけの話
他の男たちには話さないことも、ナマエには話した
オーナーに恩返しをしたいことも、オールブルーのことも、料理の腕を上げたいことも、ナマエはウンウンと笑って聞いてくれた。オールブルーの話の時は、ナマエも「いつか見てみたい」と賛同してくれた。嬉しかった




「オールブルーって何処にあるのかなぁ」
「…さあな、一筋縄じゃいかねぇ場所にありそうだけどな」
「いつか見つけに行きたいね」
「クソジジイが許すはずねぇと思うけどな」
「そうかな。サンジが涙ながらに頼めば、案外折れてくれるかもよ?」
「…………俺なんかの涙で言う事聞くのはテメェくれぇだよナマエ」
「自覚あったんだね」
「大体な、涙ってのは女性だけが使える武器であって…」



「こらそこぉ!サボんな!!」
「るっせぇパティ」
「はい、ごめんねパティ」




愛想が良いからとウェーターを任されてもニコニコ
たまにサボってサンジの料理姿を見ていてはニコニコ
お客様にお出しする料理を作っている時もニコニコ


サンジの記憶の中のナマエは、8割方ふにゃけた顔をしている















サンジの懇願には弱いところがあったけど、今だけは聞き入れられないよ、とナマエが笑う



「それ程大きな海賊団でも無さそうだし、コックは2人も要らないんじゃないかな」
「……でもよ、テメェだってオールブルー探したいって言ってたじゃねぇか。麦藁の野郎には俺から何とでも言っておけるぞ」
「そうだけど…僕はサンジより強くないからね。料理の腕だって、今はお前の方が上だよ」
「………」



肩に掛けた手荷物を抱えなおして、戸口に背を預けていたナマエに背を向ける。あまりチンタラもしていられない。麦藁と一緒に船に乗り、ナミさんを魚人の手からお救いしなければならない
でも…。サンジはもう一度だけナマエの方へ振り返った
ナマエはニコっと笑い、来いこいとサンジに手招きする



「…んだよ」
「……ごめんね、本当は僕も混乱してるんだ。サンジは、ずっと、バラティエにいるもんだと思っていたから」
「…………」
「でも、そうだよね…。サンジのオールブルーを見つけたいって言う夢を一番に応援して、叶えてやるのは、僕だと勝手に思ってたものだから」
「…ナマエ……!」
「でも僕じゃそれが出来ないんだよね、辛いなぁ。…………あんな、」




麦わらのガキなんかには、ソレができるのに






ナマエが発した、悪態らしい悪態を初めて聞いた
サンジは右目を小さく見張り、目の前のナマエを見る
「…ごめんね、お前の船長さんにこんな事言って」さぁ行った。サンジの肩を抱いて回れ右をさせる。
トンと軽く背を押してサンジをバラティエの外に押し出せば、
見送りに出ていた沢山のコック達の姿。テラスからはゼフも見守っている



ヨロヨロと船で待つ麦わらの前に出れば、背中に聞こえて来たのはゼフの激励、コック達の惜別の声、涙
零れる涙を隠しもせずにサンジは地に座して全身全霊で感謝の言葉を伝えた



「………行ってこい、サンジ」



ゼフの涙交じりの声に苦笑しながらも、ナマエも「バイバイ」と手を振る
船に乗り込んだサンジと視線がかち合い、聞こえないだろうが「また会おうねサンジ」と伝えた。「……大好きだよ」とも




大丈夫、君の未来は優しさであふれているよ




聞こえていない筈なのに、
ナマエの目には、サンジの口が「俺も」と紡いだように見えた。
自惚れた、だけかもしれないけれど。それでも






prev / next