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▼ 最近人間らしくなりました

マルコやエース達、更にはジョズからしてみてもナマエは巨大な体躯をした龍だが、白ひげからすると丁度良い大きさの愛玩動物に映るらしい。
「グラララ、肘置きにちょうど良いな」なんて冗談を言う白ひげに、ナマエは覚束無い言葉で『やめて』と胡乱な目で訴えかける。それさえもオヤジにとっては愉快なことなようで、笑いながら上機嫌に酒を煽っていた。オヤジスゲーと思う瞬間である。
しかし殆どのクルーが白ひげを羨望の目で見ている中で一人だけ、少しだけ面白くないと言うような顔をしている者がいた。
 一番隊隊長・マルコ その人だ
言葉で表現するなら、"面白くない" だろう。せっかくイゾウが注いでやった酒も碌に口に運ばれないまま温くなって行っている。じーっと、それこそ対象に穴が開いてしまうのでは?と心配になるぐらい強い力の篭った半目で、ナマエとオヤジの一人と一匹の姿を視界に入れている。どうやらご機嫌がよろしくない理由は、あの二人の"近さ"にあった


ナマエはマルコに一番に懐いたが、一番最初に心を許したのはエドワード・ニューゲートだった。
負けた者として勝った者に服従をするのが生物の本能らしいが、それはナマエも同様だったようで、拙い言葉でつっけんどんな態度を取ってはいるが、その態度もやはりどこか心を落ち着け、穏やかにしている様子が見てとれた。

要するに、ナマエはオヤジにも懐いている。

それがマルコには面白くないようだ。


「ちゃんと飯は食ってるか?ナマエよォ」

『ええ マルコがくれる』

「グララ マルコに甘やかされてるみてぇだなナマエ 道理で最初に会った時より体がコロコロして来てると思ったぜ」

『……』


――うおおおい!? 何してんだナマエー!!
オヤジの言葉に怒ったナマエが口をガバっと開いて火球を吐き出したものだからクルーの一部は大慌てで消火作業に入った。その火の大きさがほんの小火程度だったので白ひげも怒ることなく笑って楽しんでいた。空になった酒樽の追加を頼みながら、白ひげは脇で控えながらずっと視線を送っていたマルコに「お前もこっちへ来たらどうだ?」と言って手招いた。
「…了解よい」 呼ばれたから渋々、と言った感じで寄って来たマルコに ナマエは『マルコっ』と嬉しそうな声を上げた。その反応に思わずウッと顔を赤くさせる。可愛い。「ナマエ嬉しそうだなー」「かわいいなー」と言った酔っ払い共への睨みを利かせるのも忘れずに、赤い顔を隠すようにしてマルコはナマエの隣に腰を下ろした。


「…ナマエ、無闇に船の上で火を吐くのは駄目だって言ったろい」

『……ごめんなさいマルコ でも この男が悪い』


マルコの腕ぐらいある鉤爪でオヤジを指したナマエは反省はあまりしていないようだ。もうちょっとガツンと言おうかと思っていると、「まァいいじゃねェか、マルコ」なんて酔っ払ってちょっと出来上がったオヤジが言うもんで、マルコも黙るしかない。その息子の珍しい表情に白ひげはまたも笑い声を上げた。やはり成功した、と。マルコに大地龍の雌の世話を任せたのは妙案だった


「しかしなナマエ "肘置き"扱いされても何とも思わねェかったのに、太ったって言われたら怒り出すなんてどう言う基準だァ」


そこは女の難しいところだろう…と考えたところで、それは人間の女の話だったとマルコは気付く。ナマエは、龍だ。ドラゴンである。人間の女と同じ感性の持ち主だとは到底思えないが。しかしナマエが言った言葉は何とも人間味に溢れているものだった。『矜持の問題』…矜持なんて難しい言葉をどこで覚えて来たのだろう? オヤジは「そうかィ、そりゃァ悪いこと言っちまった」と言ってまた酒を煽った。そろそろナース達からストップがかかる頃だと思う。そんなオヤジをじっと見ていると、ふと無意識の内に口から言葉がこぼれていた



「…オヤジが、羨ましいよい」



「――ん? おれが、か?」

「あ……い、いや、何でも…」

『マルコ この男がうらやましいの?』

「……」



四つの目がマルコを射竦める。いや、萎縮したのはマルコの気持ちの問題だ。しかしながら何だナマエその反応は、と言いたい。どうしてそんなに口をモゾモゾさせている。獰猛な牙がチラチラ見え隠れしているぞ。


『……やめて』

「…え? 何て言ったよい、ナマエ」

『やめて マルコは、そのままがいい』

「……そのまま?」

『だから、…………むずかしい どう言えばいいのか分からない』


ナマエはもどかしそうに腕と翼を動かしている。どうやら上手い言葉が見つからないらしい。
「??」
意図を汲めず困っているマルコを見かねた白ひげは、助け舟を一隻出してやった。


「おれを羨む必要は、お前にはねェってことだろう、マルコ」


どうやらこの龍は、そのまんまのお前を気に入ってるようだからな。

オヤジの大きな掌が、マルコの頭を撫でた。温かい手に、マルコはぎゅっと胸が詰まった。親である者に、本心を見透かされていると言うのは、どうにも気恥ずかしくてたまらない。マルコは悶絶しそうだった。オヤジにはバレていたらしいし、自覚も今できた。

嫉妬を していた。

ナマエを取らないでくれ、とオヤジに向けて訴えてしまっていたのだ。それに気付かれていた。穴があれば入りたいし、無理ならナマエの羽根で覆い隠して欲しかった。しかし当のナマエは未だに言葉の不足により四苦八苦している



『ねえマルコ わたしはマルコのままのマルコが好きよ だからマルコはずっとマルコのままでいてほしいの これであってる? 言葉は間違ってない? そのままのマルコが一番で、だから』

「あ、あぁ分かった、分かったから言葉を止めてくれよいナマエ 恥ずかしくて死にそうだ…」

『死ぬ!?』

「ああそうじゃねぇって大丈夫だから!な!」



「グラララララ!!」


「わははは!なぁにやってんだよお二人さん!」

「イチャつくなイチャつくなー」

「必要なら天幕下ろしてやっぞー!」



…まったくほんとうに、勘弁してほしいものだ




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