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▼ 誘うシナプス


外見に反して……いや反してないか。
不味いってわけじゃないが美味いこともない。パウリーの作る料理を評するのにこれ以上の言葉は当て嵌まらなかった。本人はこの評価を不服と取っているようだが、それは出すぎた言い分だぞパウリー。「不味い」って斬り捨てない俺の優しさだぞこれは。

見た目が豪快なんだパウリーの料理は。鍋から吹き零れる汁、大きさも疎らに切りそろえられた野菜や肉、彩り?バランス?そんなの知るかいいから腹に収めやがれ!と言う考えのあいつに繊細さを求めたことはないが、折角「作ってやる」と申し出てきてくれてるんだからこっちも感想を言いやすい料理を出してもらいたい。



「で、結局ナマエは何が伝えたくておれを拘束してやがる」
「一度な、改めて料理の勉強してみろってパウリー」
「仕事が忙しくて残業しまくってるおれにそれを言うのか」
「俺にやれる仕事は肩代わりする。だから勉強しろパウリー。お前の料理の才能は多分、開花直前なんだよ。ここで蕾のままにしてていいのか?いやイイわけあるか!パウリーの料理を今後長い年重ねて食ってく俺のことを考えれば、お前はいち早く上達するべきなんだ」
「お、おぉ…なんだ、照れるじゃねぇか…」
「だから、な?パウリー」
「わ、わぁった!お、お前がそこまで言うんなら、本腰入れて勉強してやろうじゃねぇか!」
「やりぃ!そうと決まればこれ、料理関係の本な!俺からプレゼントしてやる!」
「おー……って重っ!?何冊あんだよこれ!!」
「それをよく読んで料理に励め。因みに俺が読んでみたところ、最初の目次で挫折した」
「早ぇ!!」









と言うやり取りをパウリーと交わしたのが、ちょうど一月前のことだ。
仕事に顔を出す以外は家とスーパーを行き来して料理の勉強に没頭しているパウリーの姿をナマエは温かな目で見守っていた。
相変わらず、ナマエの言ったことを忠実に守ろうと努力するあの姿勢が好ましい。好きだ。そろそろパウリーとの結婚を視野に入れるべきかな……。ボカッ 頭を叩かれる。「誰だよ!」ルルでしたー



「おい、話ちゃんと聞いてたか代理パウリー」
「代理パウリー、ナマエ 全くもって聞いておりませんでした」
「だろうな。もう一発いっとくか」
「勘弁してくれよルルー」



今は本来ならパウリーがするべき残業を肩代わり中だ。内容は特別なことじゃなく、ただ人手を必要とする仕事なだっただけなので無事にこなせる。ルルの話を聞いていなかったことは謝るが、何も殴ることはないだろルル。と言えばまた殴られた。ひどく暴力的



「……まあいい。続きは明日に回す事にするか」
「お?マジか。じゃあもう帰っていい?」
「しょうがない。今日はパウリー宅に呼ばれてるんだろう?」
「そうなんだって。一ヶ月の成果を見る日でな!楽しみだ!」
「美味かったら今度おれにも作ってくれと伝えておいてくれ」
「絶対伝えねー。パウリーの料理は俺だけが胃に収めるんですー」
「……お前も大概パウリーが好きだな」
「は?当たり前だろうが。俺は嫌いな奴にわざわざ本プレゼントとかしねぇから」
「の割には浮気を、」
「じゃあ帰るわ!!」
「ナマエ!!」









冗談だろ。
パウリーの住むマンションの合鍵を使おうとした手を止めた。
壁に取り付けられている換気扇から、冗談みたいに美味そうな匂いが香ってくるのだ。
一瞬部屋を間違えたのかと思ったが、それはない。もう数え切れないくらい訪れているパウリーの部屋を間違える筈ない。なのに、換気扇から漂ってくるこの匂いは……。
ナマエの頭の中で考えていることがもし本当だったら、あいつはとんでもない進化を、



「お、邪魔しまー…す…」



挨拶をしてから部屋に入るなど久しぶりのことだ。恐る恐る室内に入ってみれば、キッチンから顔を出したパウリーが満面の笑みで「早くこっち来て座れ!」と催促する。
「お、おい」この匂いはなんですか、と訊ねようとしたナマエを遮るように手を引く。あれよあれよと言う間に食卓に座らされ、視界に飛び込んで来た物に舌を巻いた



「お……おま!!」
「どーだナマエっ! ま、おれが本気を出せばざっとこんなモンだ」



ナマエの貧相なボキャブラリーでは言い表せれないぐらい"綺麗な"料理が並んでいる。

朝の市場で買って来たホンマグロの刺身も、具沢山の海鮮ラーメンもあるし、とろとろの餡かけのかかった蟹玉、ジュウジュウと音を立てている鉄板に乗ったステーキに、香り立つコンソメスープに、大好物のオムライスの上にはケチャップでなんともまあご丁寧に『ナマエ』と書かれているじゃないか。しかし名前だけって。ケチャップで名前だけ書かれてると血文字っぽく見えるって言うかせめて名前の最後にハートとかつけてくれたらもうちょっとキュンとしたかも知れないと言いますかその



「お前スゴイなパウリー!!!」
「も、もっと褒めやがれ!」
「いやマジで!一ヶ月で完璧に花開いたんじゃないか!?」



まあいいから褒める前に食ってみろって! それもそうだ。もしかすれば見た目だけ、なんてことが在り得るかもだ。…いや、何となく気付いているが多分それはない。匂いが完璧なのだ。これで味が悪いって狙ってやろうにも狙えない諸行だぞ

脇に用意されていたスプーンを持ってオムライスを口に入れてみる



「はいめちゃくちゃうまいー」
「ほ、本当かよ!」
「なんだこれめっちゃうまいわー泣きそうだわー」



いやだから美味いんだって、気付いてたって。

本当に何故こうなったのかが非常に気になって仕方ない。ナマエがやった料理本が功を奏したのか?それともパウリーの料理スキルが爆発したのか、いずれにせよこれは大変にグッジョブだぞ俺。とナマエはパウリーの手を掴んだ



「完璧だパウリー お前まじでよくやった」
「ぅ…、そ、それ、ほどでも…」


手が止まらなかった。全部一気に食った。腹持ちまで良かった。一種の幸福を感じた。料理を食ってこんなこと思うとか初めてだ。


そこへパウリーが追撃を食らわす。
「デ、デザートも一応…あんだけど……」「食います」思わず敬語になってしまった。
ここに来てのデザートなんて期待しない方がおかしい。さぞかし美味いプリンか?それとも上がったスキルを遺憾なく発揮してのケーキ類か?まあ何が出てきても美味しく頂いてやるぞ!と意気込む。

しかしパウリーはなかなか冷蔵庫の方へ向かわない。何故かモジモジと顔を赤らめている。(なんだ…?そんなに出すのが恥ずかしいデザートなのか?)でもそれってどんなデザートだよ。ナマエは極力優しい声でパウリーを促した



「パウリー? デザートはくれねぇのか??」
「あ……!…っ、お、おら!デザートだ!!」
「へ?」



間の抜けた声を出したナマエの顔にパウリーは顔を近づける。
そして、ちう、と音を立てて パウリーの唇がナマエの口に重なった。



「………デザートがキスって、パウリーおま、なんつー…」
「う、うっせぇ!!お、お前がくれた料理本のコラムに書いてあったから実行しただけだ!!」



ほら!とパウリーが見せてきた本のページには、女の子向けのようなデザートコーナーに『恋人にあげるデザートはあなたのキスがとっておき(星マーク』と書かれていた。

いや、だが書かれていたからと言って普通実行するだろうか。30過ぎのおっさんが



「…あ、ありがとうございました」
「敬語でお礼言うなばか!は、はずいだろうが!!」
「いや…俺もなんか恥ずかしくなってきた……不意打ち過ぎただろパウリー…」
「う、うっせぇー!!」






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