▼ ばかですか愛ですか
*秘書の女の子の性格捏造大
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パウリーは周知の通り女性に対してとことん初心な性格をしている。
昔から男に囲まれた生活を送り、日夜船大工の仕事と勉強に励み、小さな頃から既に恋人がいて、その恋人兼幼馴染の男を一途に愛していた為に『浮気をする』と言う概念がそもそもあいつの中に存在していないのだ。「どうして好きって気持ちが他所に移ってしまうのかが分からねェ」と真顔で言われたことを思い出す。それはな、パウリー。お前が自分で思ってる以上にナマエのことが好きだからなんだぞ、と言ってやった。顔を真っ赤にさせて否定していたか。その反応こそが揺るがぬ証拠だと言うのに
それにパウリーは、自身の追っかけである女性たちのことも妙な連中だと思っている。
「大工仕事をしている姿が素敵」「厳つい見た目に惚れちゃった」「ああ見えて純真なとこがいい」と理由様々にパウリーの後を追い掛け回す女性たちに対し、パウリーは「外見だけでおれの事好きとか言ってくる女って…ありゃあ一体なんだ。意味わかんね」と言ってるんだ。奴の中の「女性とは意味が分からない者達」と貼られたレッテルはそう簡単に剥がせはしない。
だが、パウリーの前に例外が現れる。嘗てなかった事態だろう。パウリーは成す術もなくその光景を見守ることしか出来ずにいた
「ナマエさん 予定の出社日時より3時間と15分の遅刻です。もっと時間には正確に行動してください」
「そんなことより秘書ちゃん!これから俺と一緒にバーにでも行かないか?とっておきのオレンジジュースを奢っちゃうぞ!」
「結構です」
な に や っ て ん だ ア イ ツ
「オイテメェコラナマエ!!堂々と遅刻してきながら何やってんだ!!」
「おいおい邪魔してくれるなよパウリー 今この状況が見て空気も読めねぇのか 女性を誘ってる最中なんだから静かにしてくれ!」
「うっせぇバカ!!そこが何よりの大問題なんだろうが!あと空気は読むんじゃなくて吸うもんだ!!」
目の前で堂々と浮気(?)をされたのは初めてだ。しかも相手は身内。しかも女児。超年下。なんでだよあいつばかじゃねぇのかばかだろいやばかだ!キメ顔してくんじゃねぇ!
「そ、その子の手ぇ放してやれ!」
「はい放したー」
「秘書ちゃんから距離を置け!」
「はい置いた」
「目をおれの方に向けろ!」
「はい向けた」
「早足でこっち来い!」
「はいよー」
近付いて来た身体をロープでふん縛る。「素直に従ったのに何たる仕打ち」そのままロープを梁に引っ掛けていつものお仕置きの態勢が整った。初めてこれを目の当たりにする秘書ちゃんははぁ…と口を開けて感心しきっているが、子どもが見ていいものではない
「女だと見れば見境なしかこのロリコン野郎」
「んなことないっすよパウリーさん 俺ぁ男もイケるクチですぜ」
「な、なにっ!?」
「…ちょっとちょっと、真に受けんなよ。パウリーだけだって男は」
「そ そうか」
パウリーが当初の目的を忘れそうになっていた時、背後からかかった秘書ちゃんの声で我に返る
「綺麗に縛られてますねぇナマエさん」
「だろー?秘書ちゃん、俺はな縛られ屋のプロなんだよ」
「何ですかそれは」
「あーなんだろーなー」
「そことそこで会話すんな!!」
そことそこ、と指差されたナマエと秘書ちゃんはパチクリと目を瞬かせている。
顔が茹で上がった蛸のような色になってしまっているパウリーに、ナマエは恐る恐る声をかけた。
何だか今日のパウリーさん、感情の起伏が激しいが何かあったんですか
「お前がおれの目の前で浮気してっからだろうがァ!」
「…えぇ?俺いつ浮気してたっけ」
「絶賛真っ最中じゃねぇか!」
「……ちょっと声かけただけじゃんか。それさえも許してくんないとかパウリーどんだけ」
「お、ま、おま、おまえ、どの口がそん、そんなこと言っ、」
「やべぇ。パウリーが怒りのせいで言語器官をやられた」
さすがにナマエにも焦りが見え始める。なんせ今はパウリーに縛り上げられている真っ最中だ。逃走も防御も見込めない。ワナワナと肩を震わせているパウリーに何とか落ち着いて貰おうと下手に出るが、効果は芳しくなかった
「も…!今日と言う今日は我慢ならねェ!!ナマエ、テメェの逸物切り取ってやる!!!」
「はい!?パパパ、パウリーさん!?ちょ、それはやり過ぎだぞ落ち着いて考え直してくれ!?」
「こんぐらいしねぇとテメェは何度も同じこと繰り返すんだろうがァ!」
ロープの先にナイフをくくり付けたパウリーがそれらを手で回しながらゆっくりゆっくり近付いてくる。般若だ。身体をバタつかせても堅く締められている縄はナマエを捕まえたままビクともしない。
未だかつてなかった程のパウリーの嫉妬からの怒りに、ナマエだけでなく周りで見守っていた社員たちも「あれ、これもしかしてナマエ殺されるんでない?」とだんだん状況がよろしくない方向に向かっていると言うことに気がついた。
体格の大きな者から順番に、歩みを止めないパウリーに飛び捕まってどうにか止めようと身体を張った
「やめとけパウリー!お前も男なんだからそんなグロい仕置きは止してやるんだぁー!」
「止めんなオラァア!!」
「パウリー!俺はまだ俺のムスコとサヨナラしたくないんだが!」
「じゃあどうしろってんだ!!他にどこを使えねぇようにすりゃお前は女の所に行かなくな、」
「薬を飲ませてみてはどうですか?」
「………薬?」
「はい」
「どんな屈強な人間でも生気と精気を失い人格形成が崩れマトモな自立行動を取れなくなる飲み薬なのですが…」必要でしたら手配させますよ、パウリーさん
子ども特有の愛らしい声でとんでもない発言を聞いた気がしたが、恐らく空耳の類ではない。 待て待てまて!そんな恐ろしいブツ必要ないって!! 身の危険を全身で感じ取って暴れ出すナマエの姿を見て、それから秘書を見たパウリーは、段々と冷静な判断を取り戻す
「……いいや、それは必要ねぇ」
「そうですか?」
「ああ。…あんなろくでもねぇ性格だが、それで"ナマエ"がいなくなるのは、勘弁だからな」
「そうですか」
それだけ言うと秘書は後ろに下がった。騒ぎを聞きつけてのっそり様子を見に来たアイスバーグの姿を見つけると、すぐにそちらへ駆け寄って行った。
パウリーは涙目になりながら吊り下げられているナマエの身体を縛っていた縄を解いてやった。「ぶべっ」と強かに顎を床に強打したナマエに近寄る
「………さっきまでのおれの思考がどうかしてたのは謝ってやる」
「さいでか…………あの、多分信じてはもらえないでしょうが、ここ最近の俺は心を入れ替えましたので、浮気とかしてませんので…」
「……………………」
「…信じてくれよパウリィ〜」
情けない声だ。『浮気』なんて大それた事を半日常的にやっていたくせに、パウリーより自分の立場が低くなるとすぐこれ。 本当に 碌でもない奴なのだ
「……ナマエみてぇなろくでなしに似合う こ、恋人の名は誰か言ってみやがれ」
「パウリーさんです…」
「も、もっと大きな声で!」
「パウリーさんです」
「もっと声張れェ!」
「パウリーさんです!!愛してる!!!」
「お、ふっ!?」
イキナリんな事言うな!
と赤い顔で怒鳴るパウリーを見て、ようやく事態が収束したかと他の面々は仕事に戻って行く。なんだ、険悪な雰囲気かと思って蓋を開けてみればいつもの痴話だった。そろそろ学習しないといけない
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