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「#幼馴染」のBL小説を読む
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▼ ビギニングフレンド

同い年の友達が出来るからと親父に言われ、ナマエはそれはもう楽しみにしていた。

ウォーターセブンに生まれ、下町で船大工をしている父親を始め、その周りにいる人間はみんな年上の男ばかりと言う環境。一人でいいから同年代の友達が欲しい、と初めて父親にお強請りをしたナマエの心境も分かって貰えるだろうか。
そんな息子の願いを叶える為、父親は一肌脱いだ。朝から晩まで忙しく働く仕事の合間を縫って連絡を取り付け、工場の隅で作業道具と戯れていた息子を捕まえて「俺の知り合いにお前と同い年の息子がいるんだ。その子と今度会わせてやろう」と伝えた。「まじで!?」と目に見えて大喜びする息子に気分を良くし、三日後の休みに会うようにしたから、それまでしっかり気に入ってもらえるよう頑張れよ!と激励まで掛けた。普段無愛想なこの父親からしてみれば、とんでもない快挙だった


そして約束の日が来て、ドキドキソワソワしながら父親と共に指定された場所に向かう。どんな奴だろう。やっと友人が出来るかもしれないから選り好みなんてことはしない。その子と一緒に話す話題をあれやこれやと考えていると、父親がナマエの背中を叩いた。「来たぞ。あれだ」の声にナマエの背筋が何故か真っ直ぐになる。あれか、あいつだ!金髪だ!背は…多分俺の方が勝ってる!他は……



「…!?」
「おいどうしたナマエ 具合でも悪いのか」
「いや、べ、別に…!」


おかしな息子だ。ナマエの変化に気がつかない父親は相手の男に「久しぶりだなァ!」と声を掛け合い、わざわざ来てくれたことへの感謝を伝える。



「その子がお前の息子か?」
「ああそうなんだよ。 父さんの友人だ。挨拶ちゃんとしろ」
「…こんちは」
「はは、お前に似ているな。ウチのも紹介するか、おらナマエ!挨拶しろ!」
「わ、分かってる!」
「……?」



「………えー、…と…」
「……お前がナマエ?」
「!そ、そう」
「おれはパウリーってんだ。お前と会えるの楽しみにしてたんだぜ!仲良くしような!」
「う…ぁ…!」



ナマエの面子の為に説明するとしたら、この時ナマエは完全に上がっていた。ほぼ初めてに等しい同い年の子どもとの会話も、"仲良くしよう"と言われたこともなくて、昨日散々練習したイメトレも上手く機能出来なくて、何よりもパウリーと名乗るこの少年の顔立ちが、自分のように油臭さを感じさせない整った作りをしていたものだから、
動転してしまったのである









出会い頭にとんでもない言葉をパウリーにぶつけるわ、父親からは怒鳴られ拳骨を貰うわ、折角のチャンスをふいにしてしまったんじゃないかと不安で一杯になるわでもうナマエはほぼ諦めモードになっていた。
あんな言葉を言うつもりじゃなかった。はじめましてから初めて、名前を言い合ってよろしくをしたかったのに。名前を言ってよろしくどころか、会って数十秒で相手を泣かしてしまった。何やってんだろ。
もうダメだ。また一人ぼっちの日々の始まりなんだ。こんにちは孤独、さよならパウリー…



泣きっ面で、遠くの方で話し込む父親達の姿を眺めているナマエの腰掛けている階段には夕陽が差していた。とんだ一日がもうすぐ終わろうとしている。


近くの手洗い場で顔を洗いに行っていたパウリーが戻って来た。オシャレに整えられていたオールバックの金髪も、水に濡れたせいなのか少し崩れている。そうさせたのも元を正せば自分かと思うとナマエは顔を合わせられない。いや、合わせたくないからナマエは顔を自分の膝に押し付けて俯いた。早く帰ろうぜ父ちゃん。もう俺はダメだ。ここにいたら余計惨めになるから、早く帰ろう。と心の中で催促してみる。すると、ナマエの耳に砂利を踏み締めながら近づいてくる足音が聞こえてきた。まさか、心の願いが届いたのか父ちゃん!とパッと顔を上げると、近付いて来ていたのは父親がではなく、パウリーだ
「…!?」まさかそっちかよ!とは思っておらず。想定外の出来事にナマエは慌てふためく。増して近寄って来たパウリーの顔が怒りのせいなのか赤く染まっているのも恐怖を掻き立てた


とにかく、先手必勝で謝ろう!
逃げ道を作る為に口を開こうとしたナマエより先に、目の前のパウリーの方が一歩早かった



「………お、大きくなったらって、それ何歳の時の話!?」
「…は、ぁ!?な、なん…!」
それはさっきの、俺の言った、
「お、お前が言ったんだろ!大きくな、なったら、おれをこ、こ、恋人に!するって!!」


出来たらそれはもう二度とパウリーには口に出して貰いたくはなかったー!!


「あ、あれは!その!勢いって言うか、あ、や、勢いとかじゃないななんてんだ、つい口から出たジョークって言うか、」
「う、嘘だったのかよ!?」
「いや!嘘じゃないけど!」
顔が良いから女性に云々は本当に思ったことだけど!男社会で暮らしてるから女とあんま接点なかったからつい!
「さ、さっきのアレさ!プ、プ、」
「は、え?プ?」
「プ、プロ、プロポーズって奴だろ!?」



プ ロ ポ ー ズ ?




少し待ってほしい展開に付いて行けなくなってる。どうしてだ?何故こんなことに?


「そ、そう言うつもりで言ったんじゃ」
「お、おれさ!男だし、お前も男だけど大丈夫なんかな!?」
「えっ!?だ、大丈夫?って?」
「そっか…大丈夫なのか……うわーまじかぁ…プロポーズされた…」
「……あれ?」



パウリーの顔が真っ赤なのってもしかして怒りのせいじゃない?どうもそんな気はしない。ナマエは恐る恐る訊ねてみる。気を悪くしてないのか、と



「あ、あの時はイキナリだったから何言われたのか意味わかんなかっただけだ!ちゃんと理解出来たから!」
「?…?そ、れは良かった」



一先ず気分を悪くさせてないのなら安心した
ナマエの頭は一気にそれで一杯になる。折角舞い戻ってきたセカンドチャンスだ。何やら話は妙な方向へと転がってしまっているような気はするが、理由の如何を選んでいる場合じゃない!



「お、俺さ、ナマエって言うんだ」
「!そ、そっか、ナマエか」
「なぁパウリー!俺と、一緒にいてくれないか!?」
「い、一緒に!?」
「俺さ、一人でいるのはもう嫌なんだ!パウリーがいてくれれば、俺もう寂しくなんかねぇよ!」
「お、おれが居ないとダメ…!?そんなにおれんこと…!これがプロポーズか…!」
「ダメかな!?」
「い、イイぞ!」
「本当に!?やったあ!」



途中からパウリーとの間に誤解が生じてるのが分かったが、もうそんなこと微々たる問題な気がしてきた。思わずギュッと握りしめたパウリーの手を解くと「結婚してしまった…親父になんて説明しよう…」とまだ顔を赤くさせたまんまだ。


向こうから話にひと段落つけた父親たちが戻ってくる。
バタバタと駆け寄ったパウリーは父親に向かって



「お、親父!おれ、プロポーズされた!」
「なに!?ナマエ君に?」
「オッケーしたけどいいか!?」
「しかもオッケーしたのか!?」


「ナマエどう言うこったぁ!!」
「友だちになってもらおうとしたら、色々こんがらがってさ…!」
「こんがらがり過ぎだろうが!!」



俺はまた親父からの拳骨を貰ったがそれと交換で、友達からイキナリ数段飛ばしで初めての恋人が出来たわけだが、




「……こんな馴れ初めありなのか?」
「ナマエ!今度さ、あ、会いに行くからよ!」
「!おう!遊ぼう!」





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