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sun shower
穏やかな川の流れを見つめていると、ああ、ユクモ村が近づいて来ているのだなと肌で感じられた。
水面は陽光を反射しキラキラと輝き、山間を抜けて吹き込んでくる爽やかで、どこか暖かな風は波を荒立たせることもない。
やはり、山道ルートを選ばずに、舟で川を渡っていくルートを選んだのは正解であった。
麗らかな昼下がりなど、いつぶりに過ごしているだろうか。
ユクモの渓流に住まうというモンスターも姿を見せない。穏やかで、緩やかなまま時が流れて行く。
船頭を勤めるのは、妙齢の男。小舟に乗っていても不愉快な揺れを全く感じさせず、むしろこの日のために片付けてきた激務の疲れを思い出し、眠気すら誘われるようだった。


「お兄さん、ユクモ村には観光ですか?」


気さくに話しかけて来る男に、「ええ、そのようなものです」と答える。「イイですねぇ。今の季節だとどこへ行っても楽しいでしょうが」そういうものなのだろうか。生憎、他の地に"観光"をしに行ったことがない為、返しようがない。
男は更に質問を投げかけてくる。


「お兄さんもユクモの温泉目当てでしょう?」
「……ええ。よく、お分かりに」
「へへ、なんだか疲れてるような様子が見れたからなぁ」
「……素晴らしい観察眼をお持ちのようだ。ええ、今日のために少し、無理して仕事を片付けて来たんです」
「ほう。学者さんか何かかい?」
「…似たようなものです」
「それでユクモへは、いつまでの滞在予定を?」
「一ヶ月ほどです」
「それはいいね。永住したくなるんじゃないかな、ユクモ村に」


それもいいかもしれない。ふとそう思う。
しかし、今回ユクモ村に一ヶ月滞在しようと決めた理由は、実は他にもあった。


「それで、気ままな一人旅かい? お兄さんほどの美丈夫なんだ、連れになりたがる女の人は大勢いるんじゃないのか?」

船頭はカラカラと笑いながら問いかけて来る。人懐っこい性格なのだろう。些か、それが羨ましく見えた。
 旅は道連れという。到着までの語りつぶしだ。話してみても構わないか。

「……昔、友人と約束したことがあって」
「ほう。ご友人と?」
「ええ。もう……四年ほど前になるでしょうか。お互い休暇を取って、共にユクモへ行こうと約束したんです」
「ふうん、なるほどねえ…」

――そう。あれからもう、早いもので四年が経つ。
そして私が、"彼"を探し始めてからも。

「……そう言やあ」

約束ねえ、と思案顔で何かを考えていた船頭が待てよ、と言葉を見つける。

「いつだったか…ちょうど二週間ぐらい前に、お兄さんと同じようなことを言ってた人をこの舟に乗せてユクモ村まで送っていったことがあるよ」


―――そう。それが、一ヶ月ユクモ村を滞在しようと決めた、もう一つの理由
とうに打ち切られた捜索活動 放置され、宙に浮いたまま
ようやく私の耳に届いた、確かな"該当人物の目撃情報"





「ん、その客の様子? そうだな……確か、四年前に両脚と右耳を悪くしたとかで…、ユクモの温泉には湯治目的だったって言ってたな。その時にポロっと零してたのを聞いたんだ。そう言えば約束してたな、って。やけに遠い眼をしててなぁ……それをよく覚えてるよ。え、見た目?ん〜?黒髪だったってことぐらいしか…ああでも両脚引き摺ってる割にえらくガタイがいいもんで、ハンターさんかなって思ったよ。笑った顔も人懐っこくてね、良い客だった。一ヶ月ほど滞在する予定だって言ってたから、もしかしたらまだ村にいるかもな。……ん?お客さんどうしたんだい? いや、やけに泣き出しそうな顔をしてたからよう……平気? ならいいがねぇ。……おやおや、やっぱり様子がおかしいよあんた。大丈夫かい? ほら、もう村が見えてくる頃だ。シャンとしなよ。とりあえず船着場までだから、そこからは徒歩でちいと山道を歩いてもらうことになるが、いいかい? よしよし、なら行けそうだな。…………って、おいおい!雨降って来たじゃねぇか!こんなに空は晴れてるってのに……山の天気は移ろいやすいとは言うが、天気雨を今降らさなくてもなあ。なあ、兄さん?傘とか持ってるか?大降りになることはないだろうが、山道では足を滑らせねえようにするんだぞ?  ほら、そろそろ船着場に着くぜ………ん? んん……? ……誰かが船着場に立ってるな……… あ!! あれはこの前の…
 ほらお兄さん!あの人だよ!俺が言ってた人ってのは!」