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▼ ミホーク

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!64万企画作品



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今日、久しぶりにミホークが放浪の旅から帰って来た。
我が城の稼ぎ頭である男の帰りを出迎えるのは大勢の美女、ではなくたった一人の野郎だが、「おかえり」と言えば「ただいま」と素直に返してくれることに感動を覚える。ゾロもペローナもいなくなって、シッケアール城にはまた暗い影が落ちた。独りでは、会話は出来ないんだぞミホーク。



「なのにお前は帰って来て早々に酔い潰れやがったな」


酒瓶を抱えて眠っても可愛くもなんともないぞ。
七武海の召集で出かけていたせいで酒を飲む機会が無かったとは言え、あんなに浴びるように酒を飲む姿を見たのは初めてかも知れない。「ナマエ、また腕が上がったのか」とか言いながら俺が作った料理を片っ端から口に入れてツマミにしてたせいで勢いも凄かった。ストックしてあった酒蔵の中身を飲みつぶさんぐらいだった。何とか「あと一本だけにしろ!」「もうこれで最後だからな!」と制止の声をかけていた甲斐あって、今はすっかりくだを巻いている。
ジュラキュール・ミホークの、"オーラ"も"殺気"もあったものじゃない。


「ミホーク おいミホークって」
「………む…」
「寝入る前に冷水飲んどけ。明日どうなっても知らんぞ」
「………」


もぞもぞ動いた右手にコップを渡す。寝惚けているが、中身を零したりはしない…はず。
全部飲み干してもミホークは呻いただけで、効果のほどは期待できない。やれやれ。ゾロも酒豪であったことを思い出す。今となっては全部、懐かしい話になってしまっていた。
海軍は麦わら海賊団の捜索を続けている、とのことだったが、ミホークたち七武海にその系統の命令は下っているのだろうか。いや、例えそんな命令があったとしても、こいつは従うまい。


「…いやー、それにしても今回もよく稼いで来てくれたな」


ミホークと久方ぶりに話がしたかったが当人がこんな調子では仕方ない。大人しく、ミホークが持ち帰ってきた戦利品の金貨を計算する作業でもしていよう。 うわ、いきなり分厚い札束が転がってきたぞ。


「ひぃ、ふぅ、みぃ……」
「………ナマエ……」
「ん? どうした?」

札束を数えながら片手間に返事をする。ミホークの顔は未だテーブルの上に伏されたままだ。

「明日は肉がくいたい……」
「長旅の後のお前はいっつもそう言うだろ?ちゃんと仕込み終わってるさ」
「………あぁ…」

それにしてもこいつ、豪快な酔いっぷりだよなぁ。
出先の街や島ではハメを外すほど酒を飲まないせいでシッケアール城内では大体こんな感じだ。 何でも「油断していてもいいから」だそうだ。剣士の言い分は、一般人の俺には理解出来ん。……2000万と5500か。これだけあれば先月の嵐で壊れた西宮の一画を修繕できるかもしれない。ここにペローナがいれば、奮発して新しい服の一着や二着買ってやっても良かったのだが、なんて、詮の無いことだな。


「そうだ ミホーク、お前は何か欲しいものないのか? あるなら明日隣島に行って買い足してくるが」
「………何だって…?」
「だから、欲しいものだよ 欲しいもの。 新しい上着とか、葉巻とか、何ぞないのか入用のものが」


「………ナマエ…が…おれには入用だ……」


「… 俺か? 心配せんでもお前はこのシッケアール城にとって大切なモノだから、希望するよりも前から一緒にいてやるさ」
「……そうか。…ならば無い。睡眠時間でもくれればそれでいい」
「なんだそりゃ。…って、眼ぇ醒めて来たのか?」
「…ああ醒めた。…どうも、らしくないことを言ったような気がする。早々に忘れろ」
「はいはい」


寝る。ミホークはそれだけ言うと着ていた上着を脱いで、代わりにガウンを羽織った。そう言うだろうと思ってすでに寝室のシーツは全て整えてある。

「おやすみ。よく眠れよ」
何気なく言ったこの言葉に、ミホークは振り返り、俺の顔をじっと見てきた状態で暫く動かなかった。そして漸く口を開いたかと思えば、

「……フン」
鼻を小さく鳴らした。

「……今の、どういう意味だ?」


リビングに残された俺には知る由もない。
金を片付け、残っていた残骸の撤去作業に戻ろうか、と考えて、先ほどミホークに返した自分の素直でなかった言葉を思い出して独りわらう。


「……なーにが"シッケアール城にとって大切なモノ"なんだか……」

真に返すべき言葉は「俺にとって」だった。だが言えるはずもない。
なにせ、気恥ずかしくてたまらないからだ。




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