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▼ チャカ

*ビビ弟主/アラバスタ編後




チャカの腰までしかなかった王子の背丈は、近年稀に見る成長っぷりの甲斐あってチャカの肩に頭を並べる程度に相成った。
しかし幾ら見た目が変わろうと中身は昔のまま。
チャカを巻き込んで王宮の者達を困らせた王族らしからぬ破天荒っぷりも、姉弟共々衰えることなく 本日もまた、平和が訪れたアラバスタ王国王城の自室にて、悪戯を閃いたとばかりに顔を輝かせているのである。


一応、とばかりにチャカは我が君主に声をかけることにした。あくまでも彼の胸うちにある「悪いこと」を咎めるつもりで。


「王子、」


しかし王子の方が先手を打ってしまった。
「チャカ」
成長し、女中たちを虜にさせる低い声で彼は続ける。
「俺もカルーが欲しい」
ほらまた悪だくみを…… ん?


「…カルー、ですか?」
「そうだ。父上はビビ姉様にだけカルガモ隊員を与えて、俺にはくれていないだろう。アラバスタの王子たる者が、そんな事で良いのか?」


以前までの王子なら超カルガモ部隊に対して然したる感情を持ち合わせてはいなかった。
しかし、先のクロコダイルが巻き起こしたアラバスタ王国での一件で、我等がカルガモ部隊が大活躍した報せを聞いてから、どうやらカルーたちカルガモに多大な関心を寄せているらしい。

悪巧みでなくてよかった、と胸を撫で下ろし、チャカは質問に答えるべく口を開く。


「ナマエ王子には生涯の伴侶とも言うべき者が既にいらっしゃるではありませんか」
「黒馬のな! 確かにシップウは俺の大切な愛馬だが、砂漠を走るには向いていないから街中までしか行けないだろう」


だから俺にも超カルガモ部隊の内の一匹をくれ、と王子は言いたいらしい。

王子の望みとあらば大抵の事は叶う。しかしチャカは、カルガモ部隊の担当ではなく、すぐにその要望に応えることができない。
世話役に連絡を取ってみるか、と電伝虫を手に取る。 王子はまだあれやこれやと言っていた。


「ビビ姉様のカルーを触らせてもらったことがあるがあいつ等はいいなぁ…フカフカのフワフワだったぞ…」
「…王子」
「ん! どうだ、どいつかをくれると言っていたか」
「マツゲなら、すぐにでもご用意できるとのことです」
「マツゲはラクダじゃないか!」


怒るぞ!
口ではそう言っているが、王子の顔は笑っている。

冗談が通じるお相手だからとカルガモ部隊の世話役も「マツゲなんていかがですか?」なんてチャカに言ってきたのだろう。
内乱終結後に超カルガモ部隊に志願兵として入隊したマツゲは、確かビビ様曰く「女しか乗せない」らしいが。どっちにしろカルガモでない限り、マツゲでは駄目なのは確かだ。



「くそぉー……カルガモがいいんだ俺は……砂漠を横断して他所の国にも行ってみたいのに……」
「…王子、よもや抜け出す算段ばかり立てていらっしゃるのではないでしょうね」
「うーん……砂漠を横断できる動物は他におらんものか…」


チャカの指摘に耳を貸さない王子はひたすらに頭を捻り、呻っている。
トン、トンと己の腕を叩いていた王子の指が、「そうか」の言葉と共にピンと立てられる。
チャカは嫌な予感がした。長年の付き合いのせいで、今度こそ王子の顔が「悪い事」を考えているときのものになったのだ。



「チャカ」
「…何でしょうか、王子」

「お前が俺を乗せ砂漠を渡ることは可能か?」


――ほら、やはり。





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