▼ キッド
*死亡エンド回避
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「一緒に海賊やらねェか」
俺と同い年くらいの赤い髪の少年が話しかけて来た。馴れ馴れしい奴だ。俺とお前は初対面な筈なのに、何でそんなタメ口なんだよ。何でんなに睨んで来るんだよ。
「無理。俺、目つき悪い野郎って大嫌いだから」
「…これは生まれつきだ。ほっとけ」
「そりゃあ苦労するだろお前。大変だなぁ。んじゃ」
「お前、札付きなんだろ」
赤髪の少年が見せ付けて来たのは先日発行された俺の手配書
いつ撮られたのかも分からないようなアングルで隠し撮られた俺の顔写真が真ん中に偉そうに鎮座してる。うーん、いつ見ても不細工な顔してるなぁ。もうちっとマシな角度なかったわけ?
「札付きだなぁ。で?」
「実力があんだろ?」
「いや、気付けば付いただけだから。別に俺強くなんかねーよ」
なあ、もう行っていいか?幼馴染が家で腹空かせて待ってんだよ。
でも俺が帰らせろ空気を醸し出してみても、赤髪少年はまったく引き下がらない。
寧ろ逆に「待て」とか言って引き止めてくる。
目つきも悪けりゃ強引なとこもあるとか、何なんだよコイツ
「……なーんですか…」
「お前、何でショボイ海賊からモノ盗って小遣い稼ぎみたいな事やってんだよ。ショボイとか思わねーの?」
「…思わない。チリツモ方式で、普通に俺金持ちなんで」
「みみっちぃっつってんだよ。 なあ、おれと海賊やろうぜ。んでもっとドデカイ宝を狙うんだよ」
「…………無理。俺には幼馴染がいっから。俺が、養ってやらねーとアイツは…」
独りで死んじまうだろうから
そう言った俺の言葉を、赤髪少年は鼻で嗤うなりするかと思ったけどそうじゃなかった。
本当に、本当に"意味が分からない"って言いたげなポカンとした表情を浮かべているだけだった
「……お前、小銭稼ぎはその幼馴染とかって奴の為にやってんのか?」
「あ、あぁそうだよ。何だ、問題あんのか。言いたいことでもあ…、」
「他人の為に生きるなんざ、つまんねぇんじゃねぇのか?」
大きな衝撃を受けたのは後にも先にもこの時だけだった。
"つまらなくないのか" そんなこと、考えた事もなくて、誰かに言われたこともない
俺の毎日は幼馴染で構成されていたのだから。
俺の世界の全ては、幼馴染が中心になって動いていたのだから。
ただ毎日まいにち、俺は幼馴染を独りにしないように、
死なせてしまわないように面倒を看ていて、
それでアイツも喜ぶから、それが嬉しくて、
それが俺の、
「それはお前の"生き甲斐"になってんのか」
赤髪は追撃を喰らわせる
勿論だろ! とは言えなかった。
いや、言おうとしたんだ。でも口が動かなかったんだよ。どうしてだろう。何で生き甲斐だって言えないんだろうか。アイツの助けになれることは、俺にとってもうれしいことで、この上ない しあ わせで ?
「………しあわ、せ……」
「……」
「…わせ……なんかじゃ、…ないのか…?」
「……んな疑問が浮かんだ時点で、幸せなんかじゃねーだろ」
「………俺は、」
「……もう一度だけ言う。お前、おれと海賊やらねぇか」
お前の強さをおれは知っている。おれならお前を自由にしてやれる。見たこともないようなお宝を 一緒に見つけに行かねえか
赤髪少年の言葉は蜜のようだ。ガツンと撃ち付けられ、衝撃で穴が開いた俺の心臓をコーティングするみたいにドロドロに流し込んで来る。
俺は幼馴染の顔を思い浮かべてみた。今のアイツは、昔よりも元気な気がする。今まで盗って来た金も渡してるし、貯えもある筈だ。
このまままだアイツの為にこんなことをし続けてもいいのか?と考えてみた。
嫌だと、おもった。
惰性のようで、
ずっと縛られているのかと思うと、嫌悪感がする
俺は、俺は
「………赤髪少年、お前が船長なのか?」
「そうだ。んだよ」
「いや…お前が船長なら いいかな、って」
「そうこなくっちゃなァ!」
赤髪は、さっきまでの不機嫌そうな表情から一転して本当に嬉しそうな笑顔を浮かべた。
ほんのり赤髪から潮の匂いが漂ってくる。そう言えば、赤髪は何処に住んでいる奴なんだろう。この辺りじゃ今まで見かけたことはなかったし、海の向こうから来たりしたのかな
「………アイツに、顔を合わせてから行った方がいいような…」
「いーんだよんなの。どうしても心配なら後で一度だけ手紙でも書きゃあいいだろうが」
「…そう言うものなのか、べ、勉強になるな。俺は今まで海賊から奪う側だったからいざ自分が海賊となるとどうしたもんか勝手がよく分からなくて」
「…なあお前、もしかしなくてもテンション上がってんだろ」
「………そうかも、しんない」
一度でも幼馴染に会いに行く→主人公強制死亡ルート
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