▼ イゾウ
*幼馴染主
イゾウちゃんは昔から綺麗だから、私がいつも見張っててあげないといけない。美人な幼馴染を持つと苦労する。なまじ中身の方はめちゃめちゃ男前だったりするから、イゾウちゃんはギャップが激しい。女みたいに綺麗な顔をしているのに、口を開けば「近寄るな下種が」とか簡単に言っちゃうものだから、イゾウちゃんを女だと勘違いして言い寄ってきた男の人たちは目を真ん丸くさせて驚いちゃう。力任せに向かって来られようものなら、武道の家元に生まれたに恥じない武術で、相手をボッコボコにやっつけてしまうのだから。見張っててあげなくちゃとは言ったけど、正直私なんて必要ないぐらいだ。イゾウちゃんは強いし綺麗
「イゾウちゃん、イゾウちゃん」
「何だいナマエ。どうかしたか?」
「今日の武術の稽古、どうして来なかったの?」
「あぁ、」
それは相槌ではなく、何だその話か、と言うような「あぁ」だ
久しぶりに足を運んだイゾウちゃんの部屋は、前に来た時よりも物が少なくなっているような気がする
「ナマエ」
「なぁに?」
「私、海賊になるんだ」
「海賊って、」
あの海賊?
我ながら間の抜けた質問だ。その海賊以外に、何の海賊がいると言うのか。ただイキナリだったから、イゾウちゃんが突然そんなことを言うから
「…おじさん達には言ったの?」「あぁ言ったよ」「何て言ってた?」「バカ息子って勘当された」「えっ」「だからもう、ここには帰って来ないかもしれない」
淡々と手荷物を纏めて行くイゾウちゃんの話を
どこか他人事のように聞いている自分がいる。
もうイゾウちゃんがこの島に帰って来ないなんて、そんな
「…なんで、そんなに急に決めたの?」
1番の疑問点はそこだった。イゾウちゃんが海賊にになりたかったなんて、生まれてから一度も聞いたことない。イゾウちゃんはずっと、お父さんのやっている道場の跡取りとして生きて行くんだと思っていた。
荷物をまとめる手を止めたイゾウが、口を結んだ厳しい表情でナマエを見る。ナマエがイゾウを見下ろしている筈なのに、上から押さえつけられてるこの眼力はいつされたって凄い
「私は、ずっとナマエを護りたくて強くなってきたんだ」
「!」
「道場に真面目に顔を出してたのも、ナマエが真面目に通ってたから。良いところ見せようと必死に鍛錬した」
「でも少し、目標が変わった。ナマエのことは今でも護りたいって思ってるけど、私は海賊になって、海の上でもっと強くなりたい」
「たぶん辛いことも沢山あると思う。でも、このまま陸に居続けても駄目な気がした。だから海賊になって、世界の強豪と戦いたいんだ」
イゾウの目標が、女から世界に変わったのだ。イゾウの告白を半ば呆然と聞いていたナマエにも、それだけは分かった。
「……イゾウちゃんは、もうこの島に戻って来ないの?」
「どうだろう。戻ってきても、帰る場所がないから」
「ならイゾウちゃん、いっぱい名を挙げてね」
「?」
「そうしたら、私がこの島に居てもイゾウちゃんのことを知れるでしょ?私はこの島からずっと、イゾウちゃんの心配してるから。でも、たまにはこっそり帰って来てね?」
「…分かった、ナマエ。ありがとう」
本当は付いて行けたら良いのだけど、そうもいかないだろう。私なんか付いていったって、足手まといになるだけだ
「…もう、行かないと。父に見つかる」
「……そっかぁ」
「ナマエ」
「ん?」
「小さい頃から、ずっと好きです」
「…うん、…私もです」
「…ありがとう」
伏し目がちに微笑むイゾウちゃん、やっぱり美人さん
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