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▼ クザン

*海兵主





父が私の手を温かく握ってくれた事はない。あるのは冷たく重い銃火器を手渡されたこと

父が私の名を愛称で呼んでくれたことはない。いつもナマエプラスファミリーネームで音は冷たい響き

父が私の体を抱きしめてくれたことはない。私が初めて海賊の頭の首を持ち帰った時、「よくやった」と肩を叩いて褒めてくれた。充分すぎた

父は私の前で笑ったことはない。いつも口を真一文字に結び、自分以外のあらゆるモノに興味を抱かない顔だった。死に顔も酷いものだった









書類と睨めっこなんてつまらないことやってられるか
と思ったら次の行動に移るのは早かった。部下の目を掻い潜り、本部の廊下を悠々と歩く
何かしたいことがあった訳じゃないけれど、書類と睨めっこはしたくない


おや
前からカツカツと音を立てて歩いてくるのはナマエじゃないか
相変わらず厳しい目をしてるなあ




「やあナマエ」
「クザン殿 サボタージュですか」
「…見抜くの早いねぇ」
「早く仕事にお戻り下さい」
「   ねぇそんなことよりナマエ、君なんか疲れてない?」
「疲れてなどおりません。それより、クザン殿はサボタージュの癖をお止めになった方が良いかと存じます」
「あらら……そんな言葉使っちゃって……君はまだ11歳でしょうに」
「私は2歳の頃から海軍海兵です。年齢など関係ないかと存じます」
「うんうん、よぉく知ってるよね……小さかったなあナマエ」



目の前の少女は、不必要なところばかり海軍少将だった父親に似てしまった。
2歳の頃からの9年間、彼女が笑っているところを見たことがない
それどころか、彼女が人間らしい、もっと言えば女の子らしい部分を見せたことがない
そんな部分があるのかどうかも分からない。おそらくある筈だ。あってほしい、とクザンは信じもしない神に祈る



「これからどっか行く予定だった?」
「半刻後に皆で実習訓練です」
「そう」
「………ご用件は無いようですので、失礼させて頂きます」
「ああちょっとちょっと」
「何か」



他の者より一回りも二周りも小さな海軍制服を翻したナマエを慌てて引き止める。彼女に用件?そんなの無いけれど!



「もし俺がちゃんと仕事終わらせたら、今日の夜はご飯一緒に食べてくれるか?」
「命令であるならば」
「命令じゃないよ。これはお願いだ」
「……………」
「…どう?」
「…了解しました。クザン殿がそう言われるのであれば」
「おお良かった。じゃあ頑張ってくるかねぇ…」
「行ってらっしゃいませ」



断られなくて良かった。ナマエとの久しぶりのご飯だ
クザンの足取りは、自然と軽くなる。

しかし、そんな浮かれ気分であったクザンを突き落とすようにナマエは言った



「ああ1つ、私はこの後の実習訓練を終えた後、すぐに近海の海に出て海賊討伐の任務に行って参ります。完璧に遂行するつもりでおりますが、万が一私の帰還が遅れ、クザン殿のご夕食の時間が遅くなるようでしたらこの約束は反故して頂いて構いませんので。では」




去り際に伝えられた彼女の言葉に、クザンは溜息を吐いた

本当に誰だよね、あんなに可愛かったナマエを こんな風にしくさったのは



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