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▼ クロコダイル

*使用人主/片思い?







合理的な生殺しだよなぁといつも思う

無駄にだだっ広い浴室から聞こえてくるシャワーの水音と、中で人が動く音を聞きながら、ナマエは扉の前で胡坐を掻き鎮座している。何のことはない、番をしているだけだ。この邸の主人、クロコダイルの風呂現場の


周知の通り、クロコダイルは能力者である。しかも稀なスナスナの実の能力者の砂人間だ。だからクロコダイルは能力者一倍水に弱い面がある。彼の入浴風景を直に見たことはないが、浴槽に浸かる事を嫌うらしいので専らシャワーだけのようだ。水に浸かれば身体から力が抜けてしまうと言う事態に生憎なったことがないので分からないが、こうして見張りがいないと入浴しないと言うぐらい危険な状況になるんだろう


そう言うわけで、主人から主人の入浴中の見張りを頼まれたのがココに座っているナマエなのだが、ナマエ自身も「何故自分が」と言う心境でもある
何故ならナマエはただの一般人だ。大それた力も無ければ暴漢から主人を守れるほどの度量もない。つまり、ナマエ自身を見張りに置いている意味があまり無かったりする
寧ろ、我が主人に邪な想いを抱いている人間と言う意味では、彼が一番危険ではある


しかし振り向かない。振り向いてはいけない絶対に。擦りガラス製のドア、変えてくれないかなぁなんて思いつつも振り向かない。主のぼんやり浮かび上がる陰を見るだけで大変なことになるからだ





「……そろそろか」



もうじきクロコダイルが浴室から出てくる頃合
乾したてフワフワのバスタオルを手渡す準備をし、召し物を近くに手配する。
ナマエはこの時間が一番安心できる。今日も漸く終わる時間がきた。このジレンマとドキドキを終われる時間が



背後で静かにドアが横に開く音がした。崩していた足を解いて立ち上がり、いつものように「クロコダイル、バスタオルは右手に。召し物は左手に置いてありますので」と声を掛ける。「…ああ」と入る前より幾分力のない声が聞こえ、これで今日も自分のお役目は終わった、後は邪魔にならないように速やかに退散するのみ、と「では自分は失礼します」脱衣所を出ようとすれば、後ろからナマエを引き止める声が飛んだ。相手が誰であるかなんて疑問にも思わない



「…待て」
「な、何でしょうかクロコダイル?」



主の裸体を見まい、と背を向けながら返事をすれば、音もなく近寄ってきていた主の"砂"に腕を絡め取られ、そのままグイグイと引っ張り戻される。「!?」いつもは無い事態に戸惑いが隠せない



「……拭け」
「…は、は?」
「今日は、いつもより、だるい。面倒だから、テメェが拭け」
「じ、自分がですか…!?」
「そう言ってる」



ナ、ナンダッテー!?



未だ背を向けたままのナマエにクロコダイルは用意されていたバスタオルを投げかける。頭部に掛かったタオルを力なく手にして、「そ、そこまで言われるのなら…!」と心の内で褌を締めて掛かる。カクカクとした動きで足を半歩後ろにずらし、そのまま回れ右をして主人と対面すれば、今までのナマエの苦労と動悸は何だったのかと言わんばかりに惜しげも無くあられも無いクロコダイルの裸体、が、



「……!?」
「……何やってる。早くしろ」
「は、は、はい!た、ただいま!」

「雑にしたら萎れ殺す」
「は、はい!!」



恐ろしい脅し文句を突きつけられれば浮かれてばかりもいられない。なるべく上の方、それもクロコダイルと目線がかち合わないような空間を向いて、なるべく動揺がバレないようにゆっくりと水滴が滴り落ちている髪から丁寧に拭き取り始める


そうだ落ち着けとナマエは自身に言い聞かせる。裸体と言ったって、女人のソレではない。自分と同じ男の筋肉質な身体だ。例えいくらその身体が好きな人のソレであったとしたって、毎日自分で見ている自分のと何がそんなに違うんだと。そう考えれば、幾らか楽になった。これで少しは落ち着いて作業に専念出来るかもしれない



このぐらいの強さで平気かな、と一瞬だけクロコダイルの様子を窺えば、
気持ちが良いのか早く終わらせろと不機嫌なのか仕事の考え事をしているのか、目を瞑っていたので質問するチャンスが分からなくなった


でもこうやって、曲がりなりにも好きな人の何かのお手伝いが出来ていることは純粋に嬉しい。邪な感情なんて、今はなかったんだ…そうだ無いことにしよう…だってこんなに幸せじゃないか…。とナマエはにへらにへらと薄気味悪い笑みを浮かべた


しかしそこである別の疑問点が浮かぶ




あ、

よく考えなくても、これ、下半身はじぶん、

どうしたらいいんだ?





………………だ、だれかあああああああ
















1人で百面相しているナマエの顔を クロコダイルは途端に動かなくなったタオルの陰からコッソリ窺い、ニヤリと口角を上げた
困ってるこまってるシメシメと言う様なその顔は、"好きな子ほど苛めたくなるアレ"らしい




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