▼ エース
*トリップ主/友情
たまにはゆっくりと身体を休めても良いだろう、と。
ナマエは後ろを付いて来ていたエースに声をかけた。つい最近になってようやく、エースのようにストライカー(風力波力発電)を乗りこなせるようになったので、進行方向から目を離し背後を振り返ることに成功した。
ナマエの後を追走していたエースも、「あ、休憩したいのか?ナマエ」賛成する様に顔を明るくさせる。ナマエだけの話ではなかったが、まあいいかと、ナマエは素直に自分のことと言うことにしておいた。なら近くの島にでも寄るか、ストライカーの先の針路を変えたエースの後を交代するように追走する。
程なくして、柔らかい砂浜がある島に辿り着いた。椰子の木が何本か乱立し、昔雑誌で見たような"南国の島"を思わせる島だ。
浅瀬にストライカーを停め、エースと連れ立って島に降り立つ。ずっと波の上を走っていたので揺れない足元に感じてしまう違和感は、やはり幾ら経っても慣れはしなかった。
「ここも綺麗な海をしてるじゃないか」
「だなー。青い、青い」
潮風と波に当たり続けていたブーツを脱いで裸足になったエースがバシャバシャと音を立てながら海に足を付ける。大丈夫なのだろうか、とナマエは少し不安げに見守っていたが、どうやら問題はないらしい。
エースに倣って靴を脱ぐ。足の裏に触れる砂はとても柔らかく、気持ちが良くなる程だ。こんな砂浜は、日本ではまず体験することは出来ないだろう。
「ナマエ!こっち来てみろよ!」
「なんだ?エー…、うおぉっ!?」
「アハハハ!」
海中にあった石をゴソゴソとひっくり返していたエースが、バッと目の前に見せて来たのは海鼠……のような生物だった。「な、な、な、き、キモイわ!!」ナマエは腕の毛を逆立てながら怒る。気にもしていないエースはまだ笑っていて、その海鼠生物を解放した。
そう言うものに抵抗感を持っていないところとかを見ていると、やはり同い年であっても住んでいた環境が違うからかと恐ろしくなる。
大雨の日に足を滑らせて海に落下し、何故か海面を漂流していたナマエを 黒ひげ追跡中だったエースが救出してから何ヶ月かが経過したが、まだまだ不思議なものは多々あるものだ。元の世界に帰りたいと言う気持ちはあるが、こんな風に不思議な海洋生物を見るとナマエは気持ちが萎んで行ってしまうのを実感する。元々海洋関係のものが大好きな性格をしていた。しかしまずは、触るとこから始めねば意味がない気も否めない
「男なんだからこんくらいの生き物にいちいちビクついちゃ駄目だろナマエー」
「……」
からかわれたからではないが、その笑顔が少し憎らしくなった。
仕返しがしたい。背を向けて島の街の方角を伺っていたエースにそっと近づき、
「 うぉらぁっ!!」
「!? つめだぁああああ!! な、なんだ!?」
「どうだ見たかエース」
手ですくい上げた海水をエースの頭に思い切りぶっかけた。その冷たさに驚いたエースが濡れた背中をなぜか手で押さえながら、したり顔をするナマエを怒る。じっとりと濡れそぼった黒髪の間から見てくる目には怒りは見られない。
それどころか、楽しそうでさえあった。
「な、な、な…」
「な?なんだよ。ん?」
「な……何しやがんだナマエー!!」
「おっ、やんのかエース」
壮絶な掛け合いが始まった。
海水を手で、足で、身体全体で取って相手に降りかける。ナマエはともかく、エースは海水に身体を付けているせいで力が思うように出せていなかったが、それでもナマエより力の篭った水が襲ってきている。
何やってんだろうか、男2人が海で掛け合いっこなんて
冷静な判断が出来た脳でそう考えたエースは、多分同じことを思っているだろうナマエに更に海水をかけた。お互いに頭の先までびしょ濡れだ。ナマエはエースと違って上もしっかり服を着用している。それが濡れてさぞかし不愉快だろうなと見てみるが、ナマエは、全身で楽しそうだ。
最初に会った頃のような、異世界に怯えていた頃の面影は全くと言っていいぐらいに無くなっていた。
「…ナマエのばかやろー。全然力が出なくなったじゃねーかー」
「海水かかってるだけでも力出せないとか能力者って不便だなぁ」
「どうにかしろナマエー」
「…はいはい、おぶれば良いんだろ?」
「へへへ、分かってんじゃねーか」
そりゃあ半年も一緒にいたら分かりもするよ。
渋々、背中を向けてしゃがみ込んだナマエにの様子に、エースはムズムズと口を動かしてしまう。
どうしてたかが背負われるくらいで、こんなに恥ずかしくならないといけないのだろうか。
まったく分からない。
エースは、"そう言うこと"にしておいた。
「エース、重ぇ」
「あったりめーだろ」
「俺の背中にお前の乳首当たってんだけど」
「当ててんだ」
「ばぁか」
「なにぃ?」
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