▼ ホーキンス
*人魚主
それは見上げてみるとキラキラきれいで、金色のおひさまのようだった。いや実際そうだったのかも知れない。なんせわたしにとって"太陽"とは"光源"であるならばどんなモノでも良かったのです。だからキラキラと光っているホーキンスはわたしにとっては太陽も同然 たとえあの子自身が自分のことを「そんな大仰なものじゃない」と言おうが、わたしにとってホーキンスはそうなのだから。
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「ナマエ、また来たのか」
「だってホーキンスがここに来るからじゃないの」
「それもそうだ」
波が岩場を打つ浅瀬に立つホーキンスは旅支度を完了したような格好をしていた。嗚呼、ついに行ってしまうんだと落ち込んでしまう。ホーキンスは昔から、それこそ子どもの頃から海賊になりたがっていた。海に住むわたし達人魚からすると、海賊なんて海を荒らす荒くれ者なぞになってほしくはなかったけれど、ホーキンスがなりたいと願う夢なら止めないの。だってホーキンスが海賊になってしまう以上に悲しいことは、ホーキンスがもうわたしに会いに来てくれなくなることだから
「たまにはこの海にも帰って来る?」
「?何の為に?」
「なんの為にって酷い。ホーキンスはもうわたしに会いに来てはくれないの?」
まったく冷たい男だこと。不貞腐れると、ホーキンスはそれこそ意味が分からないと無表情な顔を更に顰めて見せた。海面に指をぴちゃりとつけて、水中にあるわたしの肩を撫ぜた。優しい指遣いだ。手の冷たさとは違って、その動きはとても温かい。
「お前もおれと共に行くんだぞ、ナマエ」
「……わ、わたしも?海賊になるの?」
「嫌なのか? ならペット枠でも構わんが」
「い、嫌よペットだなんて」
「なら船員枠だ。 ナマエが言ってただろう。他の海が見てみたいのだと」
確かに、言ったことがある。この海ばかり見てもう飽き飽き。新世界にあると言う魚人島にでも行ってみたいな、と。
まさか、それで? わたしを自分の海賊団に引き入れようとするの、ホーキンスは。
「……自分が足手纏いになってる未来しか想像つかないのだけど…」
「それはおれには分からない。足手纏いになるかどうかは、実際になってみてからじゃないと」
「ホーキンスの占いには出てないの? わたしは役に立たないから連れて行かないのが吉、とか」
「ナマエを置いて旅立つと凶、とは出た」
冗談なのか本気なのかまったく分からない。どっちのつもりで言っているのかしらホーキンスは。
ただ、わたしの肩を掴むホーキンスの指の力が強くなったことだけは確かだと感じた。
程なくして、わたしはホーキンスからの申し出に対し頷くでしょう。
海賊と人魚 住める場所はどちらも"海"であることに変わりはないのですから
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