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▼ 若サカズキ

*上司主





「最近の若い子の趣味ってのを何か知ってないか、ガープ」

「それをおれに訊ねられてもな!」


最近入ってきた若い海兵の世話及び訓練を勤めることになった俺は、その若い海兵の扱いにほとほと困っていた。鳴り物入りで入隊してきた彼の名前は、サカズキ 俺より一回り若いと言うのに、野犬のように鋭い目をしていていきなり周りと馴染められていない。おそらくアレは、「馴れ合いなんて必要ない」などと抜かす系の奴だ。それはイカン。海軍は一応縦社会で、ワンマンな気持ちでは成り立たない場所だ。俺は上官として、サカズキと上手く打ち解けなければいけない。やっている事は先生のような感じだが、大体軍なんて時間があるときはそんなものだと思っている。そこでガープに相談を持ちかけてみたが、確かに相手が悪かった。



「どうしたもんかなぁ」

「大変じゃなあ、上司サマは」

「ガープだってあと五、六年したら俺みたいに……なるのか?」

「ワハハ!知らん!」


だからイカンと言っている。休憩室でガープとじゃれあってる場合ではない。一刻も早く俺がサカズキをどうにかしてやらないと、あいつは将来必ず孤立するだろう。それが勿体無いと俺は思うのだ。
サカズキは身体能力、潜在能力、基礎能力が全て平均値を大きく上まっている実力者で、やがては海軍のトップを担うような存在になれるほどの力量の持ち主なのだ。だがいかん、性格が難有りときた。言い方は悪いが、"海軍で使える性格"に矯正せねばなるまい。

これでも俺だって努力している。見かければ声をかけるようにしてるし、見かけなくても探し出して声をかけているんだ。
「サカズキ」と呼べば睨まれる、と言う最初の頃のような棘はなくなってきた、と思う。あとちょっと、あともう少しで瓦解出来そうなラインにいるような気がしてるから、最後のもう一押しをだな…



「飯に誘っても連れないしなぁ…」

「ナマエの趣味を披露してみたらどうだ?」

「趣味? なんでまた」

「お前のアノ趣味への熱量はおれも認める程だからな! とにかくサカズキのような奴には熱でゴリ押しするしかないじゃろう」

「むむ、なるほど。一理ある気がする。ああ言うのは持久戦だからな」

「だろう」

「いいな、ガープ その案採用だ。明日、サカズキに俺のお気に入りの作品を見せてやろう!」

「よしがんばれナマエ そこで今度はおれの相談なんじゃが、今度おつるちゃんに提出する始末書を代筆してくれんか!」

「バカ野郎か忙しいんだ俺は。断る!」

「なにぃ!?」









昨日のガープの助言を実行すべく、俺は早速急ぎ足で海軍居住区にある自宅に戻り、俺が丹精に育ててきた"俺の趣味"をサカズキに見せてやることにした。


「見てみろサカズキ!! 俺のこの作品を!!」


「………盆栽 ですか」

「そうだ!さすがのお前も盆栽は知っているようだな!」


意外だった、わけではないが、俺にそう言われるとサカズキは若干口をへの字に曲げた。分かりやすく気分を害されたらしい。 それくらいおれでも普通に知ってる、と言ったところだろうか。
ともかく俺は盆栽が何であるかをサカズキが知ってくれていたので遠慮なくズバズバと語ることにした。



「どんなに任務で忙しくても必ず二日に一回は帰って手入れをしていてな。俺は特に五葉松種が好きなんだがウメやボケも好きで力を入れて剪定しているんだ。今日持って来たのは松なんだが、見てくれこの模様木!水やりや肥料から始まって害虫駆除、針金かけまで拘りにこだわった作品なんだがどうだ!これで今八年程度の付き合いになるんだが俺の故郷の風景に寄せているんだ。なかなか上手い作品と思わないか!?」


「…………」


そう――何を隠そう俺は大の盆栽好き 爺臭い趣味だと笑われることが多いが、俺は盆栽が大好きだった。自宅の庭に飾ってあるのを見るだけで日々の疲れが取れて癒される。木々、植物はいい。何より緑がいい。人の心を穏やかにしてくれる作用が絶対あるに違いない。どこかの研究者はそれを調べた方がいいと思う。
しかし、やはりさすがにサカズキの興味を引くには少々度が過ぎただろうか


「……見事ですね」

「あーやっぱり……――なにィ!? 褒めてくれるのかサカズキ!!」

「…わしも、趣味で盆栽の本なんかをよく眺めることがあります」

「なにィ!?」



海老で鯛を釣ったような気分なんだが!



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