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▼ ベビー5?

*同業者/片思い






他人に身内を殺されたからと言って特に何の感情を持たず終わる日が来るとは思わなかった。ナマエは眼下に斃れ伏している人間の男だったものを見る。見るも無惨に肉塊へと変わり果ててしまっている男は、ナマエの兄だった者だ。ギラギラとした衣服を好み、狡猾そうに釣りあがった目と口は、日々女を探し女を口説く為だけに用いられていた。ナマエは未だ焼け跡の残る街並みを見る。この哀れな街は、たった一人の男の愚考によって地図上から抹消された。当時街にいた住人たちはどうなったのだろう。哀れな話だ。真相など知らないまま逝ってしまい、さぞあの世で無念に苛まれている筈だ。



「私を必要としてくれてるの…!?」「ああ、オレには君が必要なんだ。だから…」




以前兄と彼女が交わしていたこの言葉、ナマエは吐き気がした。兄の嘘と私利私欲に塗れた言葉が何と不愉快だろう。女を財布としか見ない兄が、「都合のいい金づるが出来たんだ」と言ってナマエに教えた存在が、ナマエが以前から慕っていた彼女――ベビー5であった時、ナマエは兄をどこか遠くの海へと流してしまえばよかったと後悔した。そうすれば、ナマエのボスであるドフラミンゴが無辜の街を塵に変えてしまうこともなく、何より彼女が涙を流すことはなかった。きっと彼女はまた、「ドフラミンゴの野郎にまた私の愛しい人を殺された!」と憎悪に身を焦がしていることだろう。それを思うとナマエは心臓が痛くなった。好いている女にそんな事を思って生きて欲しくはなかった。たとえ彼女が殺し屋と言う職に身を置く女性だろうと





「…ベビー5さん」
「…ナマエ、あなたも来てたの? あ…」




手には花束とシャベルが握られたベビー5と此処で落ち合う予定だった。彼女は毎回、殺された恋人と破壊された街の掃除にやって来るのが常だった。"必要としてくれた"誰かが死ぬことでまた"必要とされない"自分になってしまうのが嫌で、せめてと"何か"の役に立ちたがる。今回は殺された男と言うのが兄だったと言うことでナマエもベビー5の後処理に同行することにしていた。兄だった男の死体を見つけベビー5が辛そうにし涙を見せるものだから、ナマエは慌ててベビー5の手からシャベルを奪い取った




「…コレはボクが片付けておくから、ベビー5さんは街の方を…」
「でも!その人は私の恋人で、だから私が…!」
「ボクじゃあ街の片付けは出来ません。ベビー5さんにしか頼めないんです。お願いします」
「…!わ、分かった!」




"必要とされた!"――彼女の顔が一気にパァっと晴れ晴れしくなる。蒸気したベビー5の顔を見たナマエも顔を赤らめた。可愛らしい。本当にこの人は可愛らしくて、参ってしまう。今までに、何人の男たちがベビー5の容姿に釣られ、次にその性格を知り、彼女を追い込んで来たのかを考えると腹が立つ。ナマエはベビー5の全てが好きだ。殺し屋なのに誰かの役に立つことを所望し、誰かの力になろうと身を削る。甲斐甲斐しい女性にも程がある。ドンキホーテファミリーのただの用心棒であるナマエには、到底出来ない他人を慮る心が彼女にはあった



「………」




人一人が寝かせられる大きさの穴を掘り、そこへ兄の肉塊を投げ込んだ。切れた手首に嵌められていた宝石のあしらわれた腕輪は確かベビー5に買わせたものだ(そう兄が自慢して来た)ナマエはその腕輪と、他にも目ぼしい物がないかと兄の体を探り、幾つかの金品を自分の懐に忍ばせた。これは後で換金屋に持って行こう。そしてその金をベビー5に返してやるのだ。それぐらいさせて貰いたい




「手伝います、ベビー5さん」
「あ、ありがとう…」



邪魔な瓦礫を爆破して塵にし地面をまっ平らにする。きっとこの土地にもまた、ドフラミンゴが手を伸ばし再度街を造る。まだ尚肩が落ちたままのベビー5の肩をナマエは叩いて促した。もうこれぐらいにして、帰ろう。でも!と食い下がる彼女の気持ちは分からなくもないが、男のナマエからしてみればどうもモヤモヤと息苦しくなる。死んだ男のことなんて忘れてください、と




「……兄に取られてしまうぐらいなら ボクなんかじゃ、と気後れしてないで貴女に伝えればよかった…」
「…?なに…?何が言いたいのよナマエ」




ベビー5は、ナマエをただの同業者としてしか見てないだろう。自分を必要としない男には何の心も割かない。今までその枠組みに居た自分が、ベビー5に対して抱いているこの本当の想いは、一体どうすれば彼女に正しく伝わるのだろうか。生憎ナマエは男だ。女の扱いに長けているわけじゃないし、女に優しく接せる自信もない。
ただそれでも、肩を落とし涙を流し心を痛める彼女を 放っておけない程度の男だ





「…ボク、は あなた が好きなんですベビー5さん」

「え…っ!?そ、それって!」





期待してますかベビー5さん。貴女が何度も欲しがり望んだ言葉をボクも今から言います。
が、これは間違うことなき本心です。
どうか色んなモノが、ボクのこの言葉を勘違いしたりしませんように





「 ボクの為に、貴女を幸せにしたいんです 」








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