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▼ イゾウ

*船員主/異様趣向






「ハッピーバースデー イゾウ」
「…?おれの誕生日はまだ先だ」
「そうか?まぁプレゼントだ。受け取ってくれ」



強引にナマエから手渡された水色の包装紙の中から出てきた小箱には、懐中時計が入っていた。決して安物には見えない。繊細な細工と装飾が施された時計は、コチコチと音を立てながら今の時を刻んでいる。要らねぇよ、とつき返そうとした。しかしイゾウが時計に目を奪われていた一瞬の隙にナマエの姿は無くなっていた。いつも風のように現れ風のように去って行くナマエは、イゾウに贈り物を贈り続けている。イゾウには到底理解できない思考の持ち主だ。



包み紙と箱を持ったイゾウの姿を遠くから発見したエースが、ニヤニヤ笑いながら近付いてきた。どうせ見たいんだろう、と箱の中身をエースの方へ向ける


「イゾウ、今日は何もらったんだ?」
「懐中時計だ」
「へー…『オレと同じ時を生きてほしい』って言うメッセージか?」
「いつもみたくそんな理由込められてないだろう。奴の気まぐれだ」



そのナマエの"気まぐれ"がイゾウに向けられてからと言うもの、イゾウが寝泊りする大部屋には溢れ返らんばかりの箱の山。
全てナマエが今日までイゾウに贈った品の数々だ



最初は安物の着物だった。
代えの着物を戦闘時に燃やして駄目にしていたところに、「安かったから買ってきた」と言ってナマエがくれたのだ。
その時、イゾウは単純にナマエのその好意が有り難かった。
「ありがとう、助かる」
お礼を述べ、贈られた着物を愛着する。普段からこの着物を着ていると「あ、着てくれてるんだ」とナマエが聞いてくるから、「あぁ着心地いいぞ」と笑っていた
ナマエも嬉しそうにしていたっけ


それ以後だ。ナマエが、イゾウへのプレゼントを続けるようになったのは




「イゾウに似合うと思ったから」と銀の簪を買ってきた
「金が余ったから、ついでに」と酒を贈ってきた
「今日は晴れていたから」と言って番傘を渡されたときはさすがに何だと思った



多分要するに、ナマエは"人に喜ばれた行動"を繰り返しているだけなのだ
イゾウにモノを贈ったら、喜ばれた、他人が自分のお陰で喜んでいると嬉しい、だから贈ろう、もっと、もっとイゾウに贈り物をしよう
きっとそう言う思考回路をしているんだ。イゾウはナマエではないがきっとそうだと確信している
宝の取り分はいつでも山分け。ナマエ1人が特別多く貰っていると言うことはない。だから彼の懐事情だってあまりよろしくない筈だ
そろそろ本格的にストップをかけるべきか、ナマエの為に

金を無くして悲しむのはイゾウではない、向こうだ




「なーイゾウ、この懐中時計必要ねぇのか?」
「…まあ、頻繁に時間を確認する習慣はないよな」
「そっか。ならさ、おれにくれよ」
「…エースが?要るのか?」
「どこでも時間が確認できたら、ストライカーで遠出する時にも便利だろ?」
「まぁ、それもそうだが…」



果たして人から貰ったものを第三者に横流しするのは許されるのか
イゾウが小箱を持ったまま考えあぐねていると、イゾウとエース2人の背後から声が飛んで来た




「エース、時計が必要なのか?」




ナマエだ
イゾウが今まさに、贈られたモノを他人に渡そうかとしていた事など気にしていないのか、
ナマエはその目を一点にエースを見つめている。詰問口調だった。問われたエースは、その様子に「?」となりながらも『欲しい』と言った旨を伝えた。それを聞いたナマエは



「…ああ、分かった」



とだけ言って踵を返してしまった。
後に残ったイゾウとエースは「…何だ?」「さぁ…」と首を傾げる。が、イゾウだけは何やら胸騒ぎがしてならないでいる。ナマエの目が、あの日自分に簪を買って来た時と同じ目をしていたからだ








「エース、これをやる」
「ん?…あ、懐中時計…」



朝の甲板で、ナマエがエースを呼びとめ渡した小箱の中には、昨日イゾウに贈ったものと全く同じ形をした懐中時計が入っていた。やはりコチコチと音を立てているソレを見て、エースはパァっと顔を明るくさせる



「お〜ワリィなナマエ!ありがたく貰っとくぜ!」
「……嬉しいか」
「おうっ」


「そうか」





――嗚呼、とその2人の様子を見ていたイゾウは零した



 次の相手は、エースか





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