▼ エース
調子の外れた鼻歌を歌うナマエの顔は"ご機嫌"そのものだった。
エースはナマエから貰った眼鏡入りの箱を抱えて困惑している。視力は悪くはないし、度無しでもない。さっき覗いてみたがちゃんと度の入った正真正銘の眼鏡だ。
これをナマエはど言う意図で贈ったんだろう。エースが「なぜ?」と訊いても、ナマエは「嬉しいか?」「なぁ、嬉しいかエース?」と繰り返すばかり。
声が届いてないのか?いや、そんな筈は…
「…まあいいや。ありがとなナマエ」
「いいんだ。エースが喜んでくれるなら」
そう言って笑うナマエは、やはり優しい男に見えた
あの日から怒涛のように続けられるプレゼントの嵐も、好意だと思えば何の迷惑でもない
(でも、一部の人間はナマエのことを「狂ってやがる」と言う)
「…あー、ナマエ?」
「なんだ?」
「もう、イゾウには物やらないのか?」
純粋な疑問だった。
あの日、ナマエの目がイゾウから外れた瞬間から、ナマエはイゾウを全く見ないようになり気にかけなくなった。向こうから寄越される視線にも気付いていない。今までずっと自分を構ってきていた者がある日突然、掌を返したかのような態度を取れば誰だって寂しがる筈だ。イゾウも、随分寂しい目をしていた。貰ったプレゼントの山を崩すかどうかをずっと悩んでいる様子だった。
しかし、ナマエからの返答は随分アッサリしていた
「 イゾウ? 」
まるで、その単語の意味を知らないように
「え、いや何だよナマエ イゾウって、」
「なあ、そんなことよりエース 他に欲しいものはないか?」
「な…」
「何でもやろう 全部贈ろう 喜んでくれ すればオレもうれしい お前の望むものは何だ 何がほしい さあ言ってくれ お前の口から知らせてほしい 喜んでくれ オレもうれしい そして オレを好きになってくれ」
(一部の人間はナマエのことを「狂ってやがる」と言う)
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