OPshort | ナノ
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


▼ ボルサリーノ

*夫婦/死ネタ







妻は昔から足腰が悪かった。人の平均的な歩幅の半分の歩幅でしか歩くことが出来なくて、それでも妻は外の景色を見るのが大好きで散歩が趣味だった。ボルサリーノも、そんな妻の隣に並んで歩幅を合わせ、ゆっくりゆっくり散歩するのが好きだった。


以前は夜も昼も安全な海軍居住区に住まわせていたが、妻とボルサリーノが生まれ出会い愛を育んだこの故郷の島で暮らしたいと言うお願いは無下に出来ず、こうしてたまの休暇にしか妻の顔を見に来ることは出来ないが、自然と海に囲まれた家で妻が楽しそうに、ゆっくり散歩している姿を見るのはとても良い光景だった。



「じゃあまた来るねぇ、ナマエ」



今日も何時ものように別れを告げ海軍本部に戻るつもりでいた。しかしナマエは何故か悲しそうに顔を陰らせ、「次はいつ帰って来てくれますか…?」なんて言う。長く結婚生活を送って来たが、今になって寂しくなったのかな?とボルサリーノは可愛らしい妻の言葉に「うん。なるべく早く休暇を貰ってくるよぉ」と安心させるようにそう言った。実際は、海軍大将と言う自由ではない多忙な身の上で直ぐの休暇は難しいだろうが、「…きっとですよ」と眉を下げた妻に伝えるぐらいなら問題はないだろうと思った。長らく待たせるばかりの生活をして来たのだから、これからも待てるだろうと、そう思って


足の悪化には気をつけるんだよ。何かあれば電伝虫で知らせてね


そう言い残してボルサリーノは島を後にした。
やはり妻は不安そうに自分の手を握っていた









夫は行ってしまった。

見送りに出た海岸から自宅まで、ナマエの足ではかなりの時間を要する道のりだ

ゆっくりゆっくりとナマエは歩く

ノロマだ鈍間、と村の悪餓鬼に面白半分に囃し立てられる
悪意のない言葉に胸を痛める時はあるが、所詮は子どもの言うこと。
周りの大人たちも「やめなさい」と注意して、そそくさとナマエから距離を取る。バタン!と村中の家屋の扉が乱暴に閉められる音がして、道にはナマエの姿があるばかり。


しかしそれぐらいのことで、ナマエは故郷のこの島の者たちを厭うたりはしない。



そう、それだけならば、平素と変わらぬ島の光景だったのだ




「お前と大将黄猿が夫婦関係であることは分かった」
「……そうですか。なら、島の人たちに手は出さぬと誓ってくれますね?」
「故郷を潰すよりも、お前を殺す方がアイツへの復讐材料になるからな」



ナマエの小さな身体を取り囲んだのは屈強な海賊たち
ナマエは彼らの顔を知らないが、彼らは夫に恨みを持っている
昔に船長と仲間を殺され、必ず復讐をと誓ったのだそう
大将黄猿の故郷を突き止め、腹癒せに島民たちを殺そうと彼らが計画を企てていたことをナマエが知ったのは、全くの偶然だ。のろのろ歩いて家に帰ろうとしていた時のことだった



黄猿に口外すれば、黄猿が少しでも勘付いた行動を取れば、島に潜んでいる仲間が島民を殺して行く。脅しを突き付けられたナマエは夫に何かを訴えかけることも出来ない



「やれ」



ナマエの身体は乱暴に地面に突き飛ばされる。
たったそれだけのことで、痛みを訴える足。


振り下ろされるサーベルを見据えながら、ナマエは夫のことを思い出した




……また貴方と山の桜を見に行きたかった




足は弱くとも自分で歩く事を望むナマエの歩調に合わせてゆっくり歩くボルサリーノと、


二人で




prev / next