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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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▼ クザン?

*副官主











我らが上司、青雉クザン大将が掲げるモットーは『だらけきった正義』
規律、律格厳しい海軍において主に悪い意味で他からの注目を浴びるスローガンだ。青雉の実力を知っていても、クザンの性格を知っていても、「そのモットーはどうなんだ」と口を出してくる者たちがおりながらも、青雉直属の部下たちは何の気にも留めていなかった。
増してや、配属当初にあった真面目さ等とうに無くしてしまっている。




昼休憩を終えた海軍本部とある一室

「おーい、クザンさんのチャリンコねぇんだけどー」
「裏にも表にもかー?」
「いつもんじゃねーか?」
「そんなのナマエさんに訊けば一発だろ ナマエさーん」


「なんだぁ?」
「クザンさんの自転車ありませーん。エスケープされたかとー」


「ようしなら俺らも休憩しよう。エスプレッソタイムだ!」
「はい!」




副官からの号令に、皆一様にして体勢を崩した。給湯室に向かう者も、机の上に顔を置いてリラックスする者も、うーんと筋を伸ばし凝り固まった身体を解す者も、様々に休憩する姿勢に入っていた




『上司がサボタージュしているなら部下の俺たちも休憩したって誰も怒らない』
それを言い出したのは、もう何度と起こされる上司のサボタージュ、エスケープ行動にとうとう堪忍袋の尾が切れたナマエだった。
あの時は、クザンが行わなければならない仕事が次から次へとたらい回しにされてくる現実に苛立っていたこともあり、他の部下たちも深く考えずに「それもそうだ!!」と賛同した。



先ほど昼休憩を終えたばかりなのに、もうまるで仕事に対しやる気を起こしていない部下たちは仲間内で談笑を始めている。あちらではクザンさんはいつ帰って来るのか、こちらではなぁ今日の晩飯どうする?


号令を掛けたナマエも、先日の海賊討伐任務の後処理手配の紙に通していた目を放し、疲れを癒すため窓から見える青々とした遠くの海を見つめていた。


ああ海も青い、空も青い
果たしてクザンさんは今日はどちらにまで行ってしまわれたんだろうか




エスケープする距離がちょっとそこらの街まで、ではなく二つ三つ越えた島の中、なんてザラにあるクザンを探し出すという仕事はとっくの昔に放棄している。船も持たずに海面を凍らせ自転車で動き回るあの人に追いついて連れ戻して来るなんて不可能。それなら巧妙な嘘をでっち上げて、今のこのサボっている状態を他の隊の者に見つかったとしても問題ないようにする方が余程楽チンである。



「…あ、ナマエさん」
「なーんだー?」
「ここの署名、クザン殿の直筆サインを用意しないといけないみたいなんですが…」
「あー、どれ貸してみろ。あの人のサインを真似て俺が書いとくから」
「えっ、そんな事出来るんですか?と言うかやっていいんですか?」
「いーんだよどうせ確認書類だし。大体、君もこんな書類見ないで身体を休めなさい。大義名分の下にサボれる貴重な時間なんだぞー?」
「…そ、れもそうですね。分かりました!堂々とサボります!」
「うむ、よし。それでいー」



新入りの教育、と言う名の洗脳にも余念がない。ちゃんと部下を育ててるでしょ俺って偉いでしょクザンさん


そう思いながらナマエはサイン欄のところに、本人の字と寸分違わぬ癖を持って「クザン」と署名した。
伊達に、サボっていていないクザンの尻拭いでサインを代筆していたのではない。

海軍に所属してから早十数年、クザンの部下になり早五年
ナマエの全く予想していなかった部分の力ばかり伸びている
これは偏に全てあの上司が原因なのだから、それも仕方のないことだ



「ナマエさーん、コーヒー入りましたぁー」
「うむ、サンクス」




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