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▼ 子スモーカー

*海兵主/擬似親子











海軍が哨戒任務を行ったり、
遠方の海へ遠征に行ったときなどに、
連れて帰って来るものがある
――漂流者だ




多くは海賊に襲われた客船の乗務員だとか、漁に出かけた先で海獣に襲われ、船を転覆し海へ投げ出された者、長旅の途中で子どもを授かった男女が航海の妨げになるからとやむなく赤子を海へ還したりと
海の上での落し物はかなりの数に上る
死んでいれば持ち帰って供養をするが、生きていれば連れ帰り充分な療養期間を与えた末に故郷へと送り返してやるのも海軍の仕事だ。そう、それが大人であるならの場合

子どもや赤子は、そう上手くも行かない
身元が明らかになるまでは孤児として扱われ、身元引受人がすぐに見つかれば問題なし、
しかし里親も肉親も言い募ってこないとなれば、海軍本部の隅に仮設に建てられた託児所へと預けられる
子どもの面倒を看るのは率先して女海兵や給仕の手の空いた者の仕事で、
別段これと言って、将校より上の階級の者達にその役目は回って来ない



しかし、海軍本部准将ナマエにとっては、"他人事"とはいかないことだった




「スモーカー、またお前は他の子どもと喧嘩したんだってな? ただいま」
「……おかえり!アイツ等が先にけしかけて来たんだ、おれは悪くねぇぞ!」
「あー今は俺に近付くな。潮の臭いが移るぞ」
「…?しお?何でだよ」
「海中に逃げ込もうとした海賊船長を追いかけて飛び込んだからな だから今日は遊ばない」
「………」




ボロボロにひしゃげたバットが喧嘩の壮烈さを窺わせる。健全な目的で使用して欲しくて給料で買い与えた野球用バットも、今じゃすっかり武器として使われてしまっている。



スモーカーが他の孤児たちと折り合い上手く付けられていないのは、救出してきた身としてはやはり心配になってしまう。
ナマエ率いる海賊討伐船が嵐真っ只中の夜の海で発見した、板切れに捕まって漂流していた子ども。流された前後の記憶が曖昧で、自分の名前とぼんやり故郷のことしか覚えていなかった――スモーカーは、救出した時ひどく衰弱していた。それが二年前の出来事だ


荒くたい言動と見た目をしている子どもらしからぬスモーカーが、他の子ども達と仲良くしている姿は見かけない。大概一人でいるか、任務帰りのナマエの近くにいるか、だ



「駄目じゃねぇか、ちゃんと仲良くしねーと」
「なれあいなんざ求めてねぇよ」
「可愛くないガキんちょだなァ」



奇跡が起きて仲の良い友達が出来ても、その子達はいつも決まって此処から出ていく。やれ親が迎えに来たなど、やれ良い子だから里親が決まったなど
一人、また一人と託児所から慣れた顔はいなくなり、一人、また一人と新しい顔が入って来る。そのことにスモーカーはいい加減ウンザリしていた



「それで?今回の喧嘩の原因はなんだったんだ?」
「………」



それに対しスモーカーは口を開かなかった。言えないようなことなのか?とその時間に子守を担当していた女海兵にこっそり話を聞けば、「ナマエちゃんが大切にしてたぬいぐるみを取り返してあげたんですよ」なるほど、スモーカーは正義側だったらしい。



「…よし、じゃあ今日の晩飯は一緒に食堂で食おうか」
「……近付いちゃ臭いがうつるんじゃなかったのかよ」
「俺が風呂に入ってからでも、スモーカーの胃は待ってくれるよなー?」
「う、うるせぇな!出来るよ、そんくらい!」
「そうかそうか」



「あ!またバカにした笑いしたな!」
スモーカーのイライラに拍車をかけてしまったらしい。助走をつけ、ピョンっと海軍コートにとび付いて来た。「や、破れる!」「やぶれろ!」「この海軍コート一着何ベリーすると思ってんだ!」ぶらぶらスモーカーを引っさげたまま海軍廊下を渡っていたのが不味かっただろうか。道行く者たちからはニコニコ笑われ、本部内に孤児たちを入れることを良しとしない頭の固い将校たちからは嫌味を言われ、訓練所帰りだった新兵のクザンからは「ナマエさん子どもいたんですか!?ひどっ!おれとの事は遊びだったわけですね!」「よく見ろスモーカーだよ!分かってて言ってくるのはやめろ!あと俺とお前はただの仕事仲間にしか過ぎねぇ」「もてあそ、」「もう何言って来ても無視するからなクザン」最近、慣れてきたからなのか悪乗りに磨きをかけてきたクザンにからかわれたりと散々な道中だった。




「いいかスモーカー お前が将来海軍になるつもりだったら、クザンの下に就くことだけは止めとけ。絶対苦労する」
「…ふん おれは就くならナマエの下って決めてあんだよ」
「お、嬉しいこと言ってくれるじゃねえか しかしその時、俺は一体何歳のおじいさんになってんだか…」





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