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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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▼ サボ

*婚約者主/悲恋






恋だとか、愛であるとか。そう言った諸々のことは、わたしにはよく分かりませんでした。だってわたしはまだ5歳で、この世界でする呼吸がようやく形になり、人の顔を覚えられたばかりで、その他のことに脳を割けなかったのです。



お父様から読み書きを教わり、お母様からは自分が"女"であることの立ち居振る舞いを教わり、上流階級の生活としてまず上々の出来ではないでしょうか。
でも、いつもわたしの頭に印象付けられるようにして聞かされるのは、『婚約者』の存在です。同じく貴族の子どもとの結婚がわたしが生まれるよりも前から決まっていたのだそうで、わたしの部屋にはいつもその『婚約者』の男の子の写真が飾られています。わたしよりほんのちょっとだけ年上らしく、クリクリの短い頭髪と、写真に撮られることを不愉快と思っていそうに顰められた眉と口が印象的でした。お母様の話の通りでは、わたしの写真も同様にこの『婚約者』の子の部屋に飾られているそうです。どんな写真が飾られているんでしょうか。出来たら、かわいく満足に撮ってもらった4歳の誕生日の時の写真がいいです



『婚約者』なのに、今までで一度もお話をしたことがないのは如何なものなのでしょう。
夫婦とはどのようにしてなるものなのですか?とお母様に訊いてみても上手くはぐらかされ教えてくれません。教えてくれないとは、まだその時期ではないと言うことでしょうか。余計なことを吹き込むよりも勉強に専念しろ、と言うお父様の言葉が幻聴となり聞こえてくるようです。





「………サ、ボ」



写真の隅に綴られている名前は『婚約者』の名前です。短いけど、男の子らしくて素敵な名前。いつかこの名前を本人に向けて呼べる日が来るといいなあ。









今夜のカーテンの外はとても暗い。街中に見える街灯がポツリぽつりと灯を落とし、人の姿も疎らになっていく。でも、屋敷の正面に見えるお山の方は少し明るいのです。橙色、の光のようなものが揺れてるように見えます。火、のようにも見えました。
もう少しよく見たかったのですが、今日はもうピアノと地理の授業のせいでとても疲れてしまいました。ほんの少し眩しいですが、カーテンを閉めて布団を被ってしまえば遮断できます。それに、あっちの方角は確か"ゴミ山"です。お父様が言っていました。「ゴミ山の方角で何かおかしな事があっても、不思議なことではないよ。あそこにいる人間は、人間じゃないからな。気にしなくてもいいんだ」だそうですから、わたしはもう眠ることにします。きっと今夜は寒いから、"ゴミ山"の皆さんも暖を取ろうとしてるんですよね。
人間じゃないらしいのに、やっぱり寒く感じるんですね。



ああ、今夜はよく風が吹くなあ







 ――ガタン





「……?写真が…、」











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