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▼ サカズキ

*息子主







俺の父親は俺の本当の父親じゃなかったらしい。言葉にすればえらく簡単な、そんな重い話を夜の食事の場でされてから今日で丁度七日目のこと。この区切りのいい日が何を示すのか。分かりきっている俺はこうして、鞄2つに収まってしまった手荷物を担いで海軍居住区上層部の家の前で立ち往生をしているのだ。足が、凍ったように動かない。それは別の人の特殊能力であって、今から俺が出会う人はそれと正反対の力を持つ、俺にとっては雲の上のような人で、俺みたいな凡人海兵がこんな、ノコノコアホ面下げて会いに行って良いお人なんかじゃなくてえっと




「………三十分もそこで何しよる はよう入らんか」
「あ……は、はい」




海軍大将赤犬サカズキ―――俺の本当の、父親その人らしい、です









任務中の過激な姿からは想像も出来ない程、家の中は質素だった。畳の香りがプンと強く香ってくるのは、家人がこの家を長く空けることが多いからだろうか。通された居間のような場所の真ん中には食卓テーブルが一つ、向かい合うように並べられている座布団の数が二枚なのは、片方は俺の座る場所と言う解釈で間違ってない、かな?ここで違えてしまっては後々どうなるかが怖い。そもそも今こうして海軍大将にお茶を淹れて貰っているという現実が既に空恐ろしい



「……じっと座っとれ言うたじゃろうが」
「は…はい、すみません!」
「…………」



威圧感が、ハンパじゃない。喉の奥から搾り出されるようにして出されたサカズキさんの声は、覇気を纏っているようで心臓がぐわんぐわんと揺さぶられるようだ。大人しく座布団の上に座って、渡された湯飲みを受け取って口に運ぶ。火傷しない熱さで、猫舌の俺でも辛うじて飲める温度なのは、偶然なんだろうか。



「…………あ、の…」
「…話はジゼツから聞いとるか」
「あ、はい…」




二十歳まで俺を育ててくれた、『父親』だと思っていた男の名前だ。ジゼツが知っていたこと、聞かせられることは全て聞いておいた。そうか、と呟いたサカズキさんの目は食卓の上に向けられていて俺を見てはいない。黙りと腕組みをして、何かを考えていらっしゃる。俺は、やはり居心地が良くない。この空間、雰囲気、空気の中すべてにとって、俺という存在が違和感でしかないのだ。



「……………今までひいさ放り出しておいて、ワシぁお前に謝らにゃあいけん」
「え…っ!あ!い、いやっ、その!」
「二十年、か……思うてたよりも、えろう経っとる」
「………俺は、本当に貴方の…子どもなんですか…?」
「…ジゼツが嘘言うとらざったらのう」




何せ自分がナマエに最後に会うたのは、お前がまだ赤ん坊だった頃じゃ。面影があるとか、男の自分には分からない。とサカズキさんは言った。口角を上げて言ったその姿は、嘲笑のようにも見える。何故、自分は今になって引き取られることになったのか。サカズキさんは大将として自分が入隊した時から変わらず多忙している。そんな忙しい時期に、どうしてこんな事になったんだろう。



「…大切なもんは、ねきに置いておけと言われた」
「え、どなたにですか?」
「……ガープ」



なぜかその時、目の前のサカズキさんが泣きそうに見えたのだから、仕方ない



「……サカズキさんが、今まで俺の養育費とかを送ってくれていたって父さ…ジゼツが言っていましたが、本当ですか」
「……ああ」
「…海軍入隊時に掛かった費用、とかも…」
「……」

「……俺、まだ混乱してて、夢じゃないかなって思ってるんですけど、」
「……じゃろうな」
「俺の…父さん、ですか」
「…ああ」



やはり口に出して言葉にすれば、こんなに簡単なこともない。
受け入れるべき現実と事実は出揃った。
後は飲み込んでしまえば、それで済む



「……、…」
「………ガープに"大切なものは何か"と問われた時、真っ先に浮かんだんが、おまんじゃったナマエ …よう分からんし、答えたくもないが、それが全てじゃ」




"妻を海賊に殺され、もっと海軍で躍進する為に子どもを顧みれないかもしれない"
"頼む ジゼツ 部下の中でお前を一番信用している"
"自分の代わりに、この子を頼む"
"この子が海軍になった時が来れば、必ず迎えに来る"
"もし海軍にならなかったら、その時は――…"

"………"





「……父さん、って、呼んでもいいですか」
「…ああ」
「………と、う………」
「……?」
「…うわああああ!!」
「!?」
「あ、改めて呼ぶってなったらやっぱ…!やっぱりさぁ…!!なんてーの!?こう……なんか…!あああ…!」
「…………はは、何じゃ、せせろうしい奴じゃのう」




 ああ、新発見だ。笑った顔が少し、俺に似ている
 いや、俺が、父さんに 似ているのだ






"…いや、変わらない 共に暮らそう"







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