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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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▼ キッド

*転生主/キッドがヤンデレ








ナマエのことは嫌いだ。大前提としてこれを先に伝えておいた上でおれの話を聞け。断じて勘違いするな。おれは、ナマエが、嫌いだ。再三確認する。おれは、ナマエが、嫌いだ。




腐れ縁ってのは、縁がある人間とは果てしなくどこまでも続くものだ。昔から、惰性的に続いている"幼馴染"っつう、一見特別そうだがその実お飾りにしか過ぎない関係性をこの年んなるまでずっと継続させ……ってああもういい。別にナマエとの腐れ縁がどうのって話は今はしていない。どちらかと言えば、話したいのはナマエの人間性とどうしようもなさについてだ




ナマエの喋り方は、あいつの年齢を考えると仰々しくて疲れる。何かの漫画の影響を受けたのかと思われがちだが、あいつは小せえ時から"ああ"だったんだ。同年代の餓鬼よりも考えてることが大人びてて、おれを苛つかす言動もしばしば起こすような奴で、正直言って、つーかおれが言えることじゃねぇがナマエは人付き合いが下手っくそだ。いや下手なんてもんじゃないか。空っぺただ。空っぺた。 で、人付き合いの下手くそさは自分でもちゃんと理解してるナマエは自ら率先して人と関わりを持たないようにしている。小さい時からそれを続けて来たせいで、ダチと呼べるような奴が一人もいない可哀想な男が完成する。



つまり何が言いたいかって、おれ以外の人間と極力関わろうとして来なかったナマエが、トラファルガー・ローとか言う妙ちきりんな男に興味を持ちやがったことが、不愉快で鬱陶しくて気分がわりィ。だから





「両足の骨折らせやがれナマエ」
「断る。俺はまだこれからの人生、色んな場所に赴き地球と言う惑星の素晴らしさを探しに行きたいんだ」
「なら腕でいい」
「それもお断りだ」



ジュルジュルとナマエが紙パックのフルーツオレを飲み干す不快な音が聞こえてイライラする。昼休み特有の喧騒さも、静かにしやがらない生徒の姿も、飄々としたナマエの態度も、イラッイラして仕方ねェんだ



「何をそんな苛々してるんだキッド 月経不順か?」
「うっせェよテメェ!!ぶっ殺すぞゴラァ!!!」
「……言っていい冗談と悪い冗談を見誤ったな。素直にすまん」
「チッ!」



おれが急に怒鳴ったせいで静まり返った教室のことなんて知らねぇ。もう全てがうざったい。何年も前から既に見飽きてるナマエの面白味のない顔も、好物のフルーツオレ飲んでる在り来たりな姿も、上手いんだか下手なんだか知んねェおれのあしらい方も、他に興味を示そうとしなかったコイツの目があれからずっとトラファルガーを見ていることも




「……足も駄目、腕も駄目なら、目だ。両目を潰させろナマエ」
「……さっきから何故そう物騒な発言ばかりする。お前は有言実行な性格をしているから冗談に捉え難いんだ」
「冗談なんかじゃねぇよ。おれは、本気だ」
「……そんな物騒な考えに至る理由は何だ」
「……面白くないんだよ、なんもかも」
「俺の身体の部位を駄目にすれば、面白いと思うのか」
「あぁ。そうなれば少なくとも、お前はトラファルガーを見るどころじゃなくなんだろ?」
「……………ん?どうして其処にトラ、トラファルガーのことが……」
「………そうやって、あの野郎の名前言うだけで意識して吃るのもクソうぜぇ…!!」
「落ち着けキッド、冷静になれ。お前の言ってることはただの嫉妬に捉えられてしまうぞ」








嫉妬?ふざけんな。そんな女も男も誰でも抱きそうな生ぬるい感情なんかじゃねぇんだよ。おれのこれは、憎悪だ



トラファルガーなんかを見ようとするお前のその両目も、トラファルガーの許へ行こうと無意識に動かす両足も、おれの話を聞こうとせずトラファルガーへ意識を向ける両耳も、両腕も、頭も、ナマエの何もかもが憎い。



しかしそれらすべてを上回って、おれはトラファルガー・ローが憎い



アイツはまた、おれからナマエを奪おうとしている。性懲りも無くノコノコと全てを忘れているクセに無遠慮に何も知らないままあの野郎はナマエをまた自分のものに出来る道を渡っている




おれはナマエが嫌いだ。おれは今のナマエが嫌いだ。おれはおれを見ようとしないナマエが嫌いだ。おれはまた同じことを繰り返そうとするナマエが嫌いだ。おれはおれを選ばずにおれの許から離れおれを愛さなかったナマエが嫌いだ。だがそれ以上におれはおれからナマエを奪うトラファルガー・ローを殺したい




「………ナマエ」
「どうした。顔色が悪い」
「おれは、絶対にそんな事はさせねぇ」
「……なんだ?」
「おれのことは思い出さなくても構わねぇよ。だがな、同じことを繰り返そうってんなら、おれは」




お前をもう一度ぶっ殺したっていいんだ




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