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▼ ベビー5?

*麒麟主







『人間は恐ろしい生き物だから 近付いてはいけないよ』



半年後人間に殺されることになる母親が、幼いナマエに最期まで言い聞かせ続けた言葉
その時ナマエは母親の言いつけで草が多い茂る茂みの中へと身を潜めていた。金色の瞳に飛び込んで来たのは、大きな人間たちが逃げる母親を追いかけ捕まえ鮮やかな黄金の体毛に剣を突きつけ息の根を止めるところ。ただひたすらに、ナマエは人間が恐ろしく見えた。本来、麒麟を傷つけたりすることは不吉なこととされる。しかしその鮮やかな黄金の毛並みに、鉱石よりも硬く立派な角はとんでもない値打ちが付く代物で、金儲けの為に乱獲する人間が後を絶たない。"偉大なる航路"のとある島で隠匿するようにひっそりと生きていたが、ここも見つかった。仲間の麒麟が、呆けているナマエの首根っこを咥えて島からの脱出を試みる。まだ銃や縄を持った人間がたくさん島にいて、ぼうっとしていれば直に取り囲まれ一網打尽だ。



『人間は恐ろしい生き物なんだ 此方が戦う意思を見せずとも無遠慮に襲う 下賤で卑劣 狡猾で卑しい』



リーダー格の一際大きな体躯をした麒麟が言う言葉をナマエはただ脳裏に刻みつけた
だが、確かに母親を目の前で殺されたことは哀しいことだったが、それでもナマエは戦いたいわけではない。麒麟と言うのはどうしても気性が穏やかで、血で大地を汚すことを酷く厭う 黄金のこの体が、あの赤い血液で汚されるのも嫌 どうせ捕まってしまうのなら、自分は一切の抵抗をしないでいようと考える そうすれば人間も、きっと











ドフラミンゴ邸の中庭で微睡んでいたナマエはゆったりと目を開ける。軒先の方が俄かに騒がしい。さてはまた、ドフラミンゴが何ぞ要らぬことをしでかしたのか、それとも民の暴動か。もしくは、ドフラミンゴの命を付け狙う何者か



『……やれ騒がしい この邸宅は静穏とは程遠い場所に位置しているのだろうの』



最近は横になっているばかりで、体が少しばかり重たく感じる。のそりと起き上がり、庭を横切り騒ぎの場所に赴く。大きな体を縮めて出てみれば、そこでは邸宅の警備を任されていたドフラミンゴの部下の者達が、一人の女を取り押さえているところだった。

女はキャンキャンと吠えまくり、拘束を抜けようと身動きをして更に強い力で抑え込まれている。
黒く艶やかな髪色が目を引く ドフラミンゴ以外の人間をあまり見かけないナマエにとっては、珍しい"人間の女"だった
取り押さえられていた女は、此方を見ていた麒麟を見て一瞬目を見開いたが直ぐに元の威勢を取り戻す



「…お前が、あのクソミンゴが飼ってるとか言う麒麟かよ!」
『…………然様 女、何をそんなに暴れる?』
「畜生風情が鬱陶しいんだよ!あのクソ野郎は殺す!私の婚約者を殺しやがって…!絶対に許さねぇ!!」



なるほど 復讐か
哀れなり女の目 どす黒い炎に焼かれた色が見える
ナマエが女を尚も見下ろし続けていると、女は男たちの拘束を振りほどき、床に転がっていた自前の武器を手に取って麒麟の首に照準を当て睨んできた



「退けよ畜生!あのクソ野郎はどこだ!!」
『……やれ女 斯様なものをわたしに向けるでない』
「クソッ!飼い主に似て揶揄いやがってムカつく!!」



女は手に持っていたランチャーの引き金を引こうとした。部下たちが取り押さえるよりも、あの弾が麒麟の首元を貫くのが早いだろう





麒麟は争いは好まない穏やかな種族である。
大地が血で汚れるのを嫌い、自分達の体に陰りが訪れるのを厭い、なるべくとして平穏に生きたがる生物


だがそれと、個々の力が人間よりも劣っているのかと言えば、答えはノーである




麒麟は黄金の体を揺らし、立っていた場所から姿を消したかと思えば、武器を構えていた女の背後に回りこんでいた



「な…!?」
『手荒い真似をする 許してほしい』
「っ!!」



女の肩に強くは食い込まない程度に牙を立て喰らいつく。
「あっ!」と声を上げ腕に力を入れられなくなった女はガシャンと大きな音を立てて武器を取り落とし、自身も床に膝を付いて倒れた
すかさず部下たちが女を拘束し直した。ナマエを見る目は、誰もが恐怖しているように見える。ドフラミンゴ邸宅で飼われていると言っても、飼い主からの強い要望であまり他者との交流を許されていないのだ



『…やれ 久方ぶりに激しい運動をした これは筋肉が痛む』

「ちくしょ…! お前もいつか絶対殺してやる…!」
『そう言うな美しい人間 婚約者を殺されたのならまた新たな者を探せば良いだけではないか?』
「お前みたいな畜生に何が分かるってんだい!」
『怒鳴られるとは思わなかった……やはり主の周りの人間は如何して面妖な者ばかりおるのやら…』




そしてその日の夜 邸宅へと帰って来たドフラミンゴが驚きと喜びの声を上げた

――あのナマエが寝る・食う以外の行動を取っただと! おれでも見たことねぇのになァ!!

同じように動いて見せろ!と強請る飼い主の言葉をどうにかあしらいながら、麒麟は夢現の中で戦っていた




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