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▼ エース

「2回目」
「? 何の数字だ?」
「火拳が俺の店で食い逃げをした回数だ」
「あー、そうなんかー」
「犯人のくせにノコノコとまた戻って来やがって!食い逃げすんなら二度とやった店に来るんじゃねーよ!」
「お前口悪い店員だなー」
「店長じゃボケェ!」



飄々として食事の手を止めない目の前のこいつを殴打してやろうと握ったフライパンは背後から俺を止めに入ったアルバイトの手によって奪い取られてしまった。「何してるんですか店長ー!」うるせぇ止めるなアルバイト!このまま黙って食い逃げ犯を見過ごしてちゃコイツの他にも同じことをやらかそうとする輩が出てくるかもしれねぇだろうが!こう言うのは根元から絶やさないといけねぇんだよ!悪いことをした奴は、どんな奴だろうと成敗しなくちゃ駄目なんだ!たとえ相手があの火拳だろうとなぁ!



「あーでもこの店の料理やっぱウメーなー」
「あぁ!?」
「昨日食ったパエリアの味が忘れられなくてよー、本当は今日の朝出発する予定だったんだけど予定変更してまた食いに来ちまったんだって。許せ!」



何とも人の良さそうな笑顔で言われてしまった。いや、海賊に人がいいも糞もないだろうが、呆れるぐらいバカみたいな笑顔だったんだ。それのせいで「まぁ…そこまで言うなら許してやらんことも…」なんて考えてしまったわけだが、いや待て。違う、おかしい。絆されるな俺



「そんなに褒めてくれるんだったら金ぐらい払って誠意見せやがれ海賊!!」
「そ、それもそうだ!」
「あー…そいつもそうだなぁ……わり、そんな選択肢がなかった」
「どんな教育受けて来てやがんだぁ…?海賊って奴らは…」



非常識にも程がある。俺が受けた屈辱はそう易々とは撤回されないぞ海賊め。さっさと払うもん払ってから飯を食いやがれ、と睨みつけてやれば火拳は漸く自分のカバンを探り始めた。勿論俺は、そこから火拳の財布が出てくるもんだと思っていたんだ。だが火拳が取り出したのは、何故か小振りの短刀



「…! テメェ…、そんなに金を払うのが嫌か。遂には武力行使か。いいだろ相手してやる。だがな、狙うのは俺だけにしろよ。アルバイト共に手ぇ出したらタダじゃおかねぇからな」
「て、店長かっけぇ…!」
「ん?何のことだ?別におれは戦う気なんてねーぞ?」
「じゃあ何でナイフなんか取り出してんだ!金!テメェが今出すべきなのは金だ!」
「コレで支払わせてくんねぇか?」
「………は?んなナイフなんか必要あるかよ」
「このナイフ、ただのナイフじゃねぇんだぜ? 見てみろ!柄のとこに埋め込まれてるのはサファイアとルビーだ!刃は全部クリスタルだ!」
「はぁ!?」



カウンターに置かれたナイフを手に取ってみる。 確かに、ナイフにしてはやけに重く、実用的ではない。本当に宝石が多量にあしらわれた、装飾用のナイフだった



「今手持ちがないから、それやるよ」


「逆に貰いすぎだろーが!!俺のパエリア2食分にここまでの価値なんかねぇぞ!?」
「す、すげー…こんだけの宝石があればこの店も今より二周りくらい改装出来ますよ」
「来がけに沈めた海賊船から掠め取って来た奴だからよ、まぁ遠慮せずに貰ってくれって」



「それに、アンタの作るパエリアめちゃくちゃ美味かったしよ!」
今度はその笑顔に対して返す言葉がなかった。テーブルの上に依然置かれたままの宝石ナイフを見て、火拳自身がそこまで言うんなら、と頂戴することにした。
「…返せって言われても返さないぞ?」「要らねーよ。それより なぁ、お代わりくれ!」突き出された皿を受け取る。まだ食うのかこいつ。これで何杯パエリアばっか食ってんだ。一応この店のメイン料理はパエリアじゃねぇんだが、とは言い出せない。









「…………へいお待ち」

「おっ!待ってましたぁ!」





…で、この火拳は一体いつまで俺の店に居座っているつもりなんだ。
あれからかれこれ二週間は経っているんだが、まだ火拳は出発とやらをしないのか。




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