OPshort | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


▼ ペル

自分の進んでいる方向が合ってるのかとか、頭の中の東西南北のコンパスが狂ってやしないかとか、王国はとか、王女はとか、色々懸念はあったがまず、死にそう、だ


「……、……」


落ちている。重力に逆らえず、自分の体が真っ逆さまに落下して行っていた。止められない。もう、1ミリも腕を上げられそうにない。頭はぼんやりイカれちまってるし、それに何だか頭も、ああもう  ダルったい、









「 おんやまあ 」


見てくれコオロギや 空から鳥が降って来とるぞぉ


  ――いや、人か?  ――ああなんだ、人だった


傍らのコオロギが「わん!」と吠えた。こらこらそれは食べちゃ駄目だぞうコオロギ









自分を助けてくれた恩人に対してこんな事思うのも失礼だが、あの男――ナマエはとても変な人間だ。
第一に、飼い犬に『コオロギ』と言う名前をつけている。どうしてそのチョイスなんだ、とペルは頭を捻った。何か、並々ならぬ事情があるのかとも思ったが、当のコオロギ本人は愛くるしい顔で「わん!」と吠えているから多分「そんなみみっちぃこと気にすんな!それより具合はどうだ!」ぐらいの事を思っているのかも知れない。
「おー、起きたかー」暖簾をくぐり部屋に入って来た怪しい行商人の格好のナマエに「お陰様で」と声をかけた。
彼とコオロギに自分が拾われてから今日で多分一週間
体調は快復の一途を辿っているらしかった



「しかしまあ、あんたもなかなか生命力高いお人ですなあ 流石悪魔の実の能力者と言ったところですか」
「…いや、ナマエ殿の出される不思議な薬のお陰だとも思うんですが…」
「あ、そうですか?」


行商人のナマエから出される薬は、何と言うか特殊な代物ばかりだった。
王国内でも見かけないような真っ白の粉末に、何の植物か分からない物を擂り潰した粉、木の実のような黒い丸薬は、飲んだ瞬間猛烈な吐き気を訴えてきた。

何れにせよ効力はあったらしく、こうして生命力を養えたのだが、この男が王国内で商売をしていたとすれば、まず間違いなく同行をお願いしただろう。


「そうだ、ペルさんに朗報だよ。ようやくこの辺りを通りかかってくれた医者らしい医者を見つけたんだ」
「本当ですか」
「嘘は言わんよ、俺は」



ペルが落ちて来た砂漠のど真ん中には、ナマエの住む移動用式住居以外に人は住んでいない。たまに砂漠を横断している一行の姿は見かけるが、医者が通りかかったと言うのは確かに朗報だ。ペルは未だ起き上がることさえも許されない為、寝台に横になったまま喜色を含んだ声を上げる。
それを見たナマエにしては、珍しく穏やかな笑顔を返された。



「良かったですなぁペルさん。応急手当てと俺の薬以外で助かる選択肢が与えられそうで」
「わんわん!」
「コオロギも喜んでいますよ」
「はは…いえ、ナマエ殿にも感謝してるんですよ。これでも」
「いやいや、なあに」


薬を調合している手を止めずに、ペルの言葉に謙遜を見せるナマエは嬉しそうだ。

戸口の方から老人の声がかかった。言っていた医者が見えたのだろう。「こっちですよ医者様ぁ」あーどっこらせ、と声を出して立ち上がったナマエはノロノロと出迎えに行く。
ペルは寝台の傍で尻尾を振りながら見つめて来るコオロギの頭をそっと撫でた



「お前の主人は、良い人だな」


だろ!と言うように、コオロギはわん!と吠えた




prev / next