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「#幼馴染」のBL小説を読む
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▼ アプー

*トリップオタク主/邂逅










ごく一般的なコミュニティ障害者だった。他人と顔を合わせるのが億劫で仕方ない。他人が何を考えているのかをいちいち気にして行動しなければならないのが面倒。自分の言動1つで好きか嫌いかの印象を与えてしまう一大事。他者よりも劣っている技量を見せるのが恥ずかしい。やってられない、外に出たくない、他人が存在してるのがいけない。その点、ネットは楽だ。ここに"他者"はいない。いてもそれを脳はそうだと思わない。画面上に映し出される言葉や暴言や情報は全てデータでしかない。それらを"人間"だと思うのには無理がある。どう見ても単語、どう見てもただの言葉だけ。人間なんて何処にも存在してない。楽だ。外の世界とは違う安穏がここにはある。だらしのない子どもの面倒を看る世間一般で言うところの"両親"はいない。随分前に死んだ。両親の葬式中もひたすらに他人や親戚と会うのが嫌で喪主やら何やらも全部避けて親兄弟に任せた。親戚中から向けられる非難の視線は堪えた。これだから、外は、他人は嫌なんだ。


今日は大雨だ。雷も鳴っている。何度か大きな音がしたから、多分近くに落ちた。それでもまさか我が家には落ちて来ないだろうと呑気な事を考えているので、近所の電線が切れるまではネットをしていようと嵐の夜にパソコンを付ける。
濁流のように記事が増えていくニュース掲示板を覗いて、目ぼしい物を粗方読んで、暇になったからアニメサイトを見る。
今期のアニメは皆女の子が可愛いしストーリーもふり幅が広くて面白い。さて何から見ようかなと画面をスクロールして、ふと目に止まった『ワンピース』の文字



男――引き篭もりのコミュニティ障害者であるナマエは、ワンピースが嫌いだ。高校の頃まではジャンプで立ち読み程度に読んでいたが大人になってくるとだんだん話の幼稚さや展開のグダグダっぷりが萎えて読むのを止めた。ルフィの馬鹿で考えなしの脳筋で明るいところに腹が立ってきたらこの作品は見れないだろう。最近の話は追ってないから今どんな状態になっているのかは知らないが、きっと同じ内容をまだ続けてることだ。ナマエはハ、と鼻で嗤ってページを閉じようとマウスを動かす。ブラウザボタンをクリックしようとしたその時、外で一際大きな雷の音が鳴った。「!」地面を揺らすような轟音の後にカーテン越しにも漏れて見えた稲光 落ちる そう思った時には遅く、バチバチバチ!と電流が奔る音がした後、部屋の電気とパソコンの電源が落ちる。

「うわ、」もしかして家のすぐ隣に落ちたんじゃないか?と様子を窺おうと窓辺に寄ろうとして、ナマエは強い立ちくらみに襲われた。頭の中がビリビリ痛む。まるで、電流を頭に流されてるような痛みだ。思わず呻きながらしゃがみこむ。それでも痛みは治まってくれず、物が雑然と散乱している床の上に倒れこんだ。









次にナマエが目を覚ました時、そこは自宅の私室じゃなかった。硬い地面の感触がして、頬に砂や砂利が張り付いている感覚がする。それに頭が酷く痛む。ナマエは何とか体を起こそうとして、それが上手く出来ないことに気付いた。足がガクガクと震えている。「?」「??」 立てない。何故だ。どうして足が動かない。 ナマエは愕然とする。地面に伏したまま視線を辺りに巡らせてみたが、視界に入って来る風景はとても自分の住んでいる地域の近くのものではない。家は建っていないし、人っ子一人通っていない。変わりだと言うように、あちこちの木々の間から動物のような鳴き声が聞こえてくる。それに何故か、地平線の先に見えているあれは、雲ではないか? なぜ、どうして地面と雲が平行して見える位置にあるんだ。

何とか体を起こす。動こうとしない足を叱咤して、フラフラと立ち上がった。体から吹き出てくる汗や悪寒とは違い、空気は異様なまでに澄み渡っている。排気ガスや工場ガスや余計なものを含んでいない山の空気のようなそれを肺一杯に吸い込むとさっきより少し気分が良くなった。
だが依然として、足はガクガクと震えて動けない。それに何より、此処は、何処だ




「………だ、……」



誰か、と言おうとして止まった。こんな状況にも関わらず、他人を頼ろうとしている自分が腹立たしくなったし、怖くなった。こんな場所にいる人間が、普通のイイ人だなんてわけがあるか?足が震えてみっともない自分を助けてくれるような他人が、いるなんて思ってるのか? 馬鹿言うなよナマエ、お前は他人が大嫌いだろうが。

他者は恐ろしいがやはり何よりも自分の安全を確保するのが必須事項だろう。ナマエは必死で頭を振って意識を変えようと試みた。「だ、誰か!!いませんか!!?」ウン何年ぶりに出した大声だ。そのナマエの声に驚いたのか、辺りを包んでいた動物たちの声が一瞬にして静まり返る。不安を更に煽られた。想定はしていたが、返事がない場合どうすればいいのか、成す術がもう、と絶望に陥りつつあったナマエの耳に紛れも無い救いの声が届いた



「お、オオオオオイ!!そこに人いんのかアアアア!!?」

「!」



人の声だ! すぐに声のした方向へと向き直って再度「ここだ!!」と返事をする。
すると声の主と思しき男……と、その後ろから何人かの男たちが走ってくる姿が見えた。大勢いたのか!?とナマエが人の多さに驚いていると、声の主が「おおお人いた!!」手をブンブン振って来た。そこでナマエは目を疑った。視力が悪いせいで男の手がブレて見えてるのではない筈だ。男の腕は、奇妙なまでに曲がりくねっている。まるで腕の関節がいくつもあるような感じで、

「!?、!?」
突撃してくる奇抜な男にうろたえていると、団体のその後ろから更に「ブギャアアアア!」と言う遠吠えが聞こえて来た。 は?  よくよく見てみれば、声の主たちは大量の猪に追われている。 「はあ!?」驚愕の声を出したナマエの様子など気にしていない腕関節が多い男はナマエのいる場所にまで走って来ると「いい所に人がいた!なぁアンタこの島の住人だろ!?オラッチたちを助けてくれねェ!?」「は?」呆然としていたナマエの体を関節で器用に拘束してから駆け出した。急な浮遊感に襲われたナマエは自分の身に今何が起きてるのかがさっぱり分からなくなっている。妙な場所で倒れていたと思ったら腕関節が多い男に担がれてしかも猪に追われている。夢だろうかこれは、夢であってもいいはずなんだが



「い、いや俺は、そんな、」

「うおおおお!?」

「アプー船長!!我々と後ろの猪、なぜか空中を歩いてます!!」

「は?」

「何なんだよこの島はよおおおおお!!!」

「え、あ、え、え??」



どう言う事態だこれは。それよりも気になる単語を聞いた気がした。"アプー船長"?それ、何だか聞き覚えがあるぞ。確か、たしか、



「………ワン…ピース……!?」


の世界だなんて、言わないよな神様


そんなナマエの独白を掻き消すかのような関節の数の多い男の言葉



「お前、ワンピースのこと何か知ってんのか!?」



知らん知らん知らん知らん!そんなもん知らんわ!!












(ワンピアンチコミュ症男主+アプー)

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