OPshort | ナノ
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


▼ ホーキンス

シャボンディ諸島の中でも有数の三ツ星と名高いレストランへ食事をしに来ていたホーキンス一味は、案内されたテーブルへと向かう道すがら思わぬ者と出くわした。


ステーキを食していた手を止め、「…あら?」と何かに気がついた女性の声に、ホーキンスは無表情のままハッと驚く。そして信じられない、と言った目のままで、声をかけてきた女性を見た。すぐに、明るい声が返って来る。


「まあ!やっぱりホーキンスではないの!」
「………あねさま」


呆然としたままのホーキンスに、笑顔のまま駆け寄った"あねさま"と言う女性は、「久しぶりねぇホーキンス!何年ぶりかしら、大きくなっちゃって!」と親しげだ。


突然の事態に置いて行かれまいとするクルーの一人が船長に尋ねる。「こちらの方はどなたで?」しかしホーキンスは何も答えない。未だ女性に対して反応に困っているようだ。

見かねた女性が、尋ねたクルーに挨拶をする。艶やかに笑う顔は年齢不詳の美しさを持っていた。


「どうも、ホーキンスがお世話になっているようで私からもお礼を申し上げますわね」
「は、はぁ…。あの、船長とはどう言ったご関係で?」
「"あねさま"と呼ばれてるようですが、ご姉弟ですか?」
「いいえ〜血縁関係の有無はないわ」


ホーキンス一味を席に案内しようとしていたボーイは退出するかどうか迷って立ち竦んでいた。それを見た女性は、下がってもいいわよ。と促す。「ねぇホーキンス、一緒に食事しない?」久しぶりにさ。そこでホーキンスは我に返る。「…はい」と答え、他のクルー達には他のテーブルに行くよう命令した。

女性に手を引かれ、座っている席の真向かいに案内されたホーキンスは大人しく席に着いた。ぎこちない動きだ。余程緊張しているのだな、と女性は含み笑いを返す。



「そんなに怖がらなくとも良いじゃないホーキンス。もう呪いも咒も、掛けやしませんよ」
にこにこ。昔と何ら変わっていない笑顔に、ホーキンスも一言「…はい」と言うしかない。


そこで、彼女と過ごしていた幼少期の記憶を思い出す。
毎日のように、覚えたての呪術の実験台にされ、怪しい儀式の手伝いをさせられ、生贄とする動物の捕獲に手を貸した日々
どの記憶を思い出しても幼い自分は泣いているか困惑しているが、その中心にはいつも彼女の姿があった。どの彼女も、愉快げに笑っている。昔と変わらない表情のままだ。それが喜んでいいところなのか、悲しむべきところなのかは、生憎とホーキンスには判然としない。


「…あねさま、何故このような場所にいらっしゃったのですか」
「オークションをね、覗こうと思っていたの」
「…オークション、ですか」
「そう。生命力のある人間が出品でもされてたら、実験台に使おうかと思って」


未だ呪術の研究に勤しんでいるらしい。「…よい実験台が入手出来ると良いですね、あねさま」と言って、自分へ火の粉が飛んで来ぬように予防線を貼るぐらいしか出来なかった。

すると女性は一段と楽しそうにフフフと笑う。


「…?」
「ああごめんね。貴方にあねさまと呼ばれるのが懐かしくって、ついね」
「…おれも、久々に呼びました」
「ホーキンスが海に出ちゃってから、随分と疎遠になってしまったものねぇ」



でも今日会えて良かったわ。とても良いプレゼントよ。

そう言うと彼女は席を立った。
もう行くのですか、と上目遣いに尋ねるホーキンスの頭を撫でた女性は「またね、ホーキンス」とホーキンスが嫌う不確定な別れの言葉を口にして出口の方へと去って行った。


満足な思い出話も出来なかった。じっと女性が出て行った扉を見つめていたホーキンスに、ずっと様子を気にかけていたクルー達が歩み寄って来る。どうやら注文も取らずに待っていたようだ。



「船長、結局あのお方は何者で?」


暫しの沈黙の後、ホーキンスは口を開く


「……おれの初恋の女性だ」

「…えぇっ!?」
「そ、そうなんですか!?」
「ああ」


彼女をホーキンスがあねさま、と呼ぶのは、単純に彼女が目上の女性だったから。まじないの先輩でもある彼女の後を雛のように付いて回って、泣かされても酷い目にあっても後を追いかけたのは純粋な好意故に

話を聞かされたクルー達は「はぁああ…」と感嘆の息を漏らした。
船長が惚れた女性。その情報を知った上で先ほどまでの彼女の言動を思い返してみると、なるほど確かにそれに相応しい人だったな、と納得が行ったのだ


prev / next