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▼ キッド

*機械主/近未来パロ






まず最初に申し上げておきますが当機は旧式武装人型戦闘兵器K-X・ナマエ――所謂ロボットである。


"機械人形"…そう蔑称する者も少なくはないが、当機は着飾ったただの人形ではない。
自分で思考し、行動を起こし、後悔も喜びもする。"私"と言う個人の人格、意思があるのだ。
しかしそれは"私"と言う旧式武装人型戦闘兵器K-Xに最初から搭載されていた機能ではない。
我が主――まだ小さく幼い人間ながらも卓越した機械の知識や金属の取り扱いに長けているキッド様自らの手により備え付けられたオプション機能である
私の個体識別番号の後に付けられたK-Xと言う呼称は彼に付けられたもの。Kは我が主のイニシャル、Xとは我が主が手を加え作り上げた十番目のロボットであることを指すものです。

排他的スクラップ置き場にて稼動を完全に停止しスリープモードに移行していた廃棄寸前の当機を拾い上げ修復してくれた我が主には万もの大恩がある。
世界は交流を止め、地球と言う1つの惑星に1つだけの国家を築こうと戦争を繰り返す。
その犠牲者たるや星の数程にも上がり、街は焦土と化し、人々は日々の困窮に涙を流す。
軍事目的の為に製造された旧式戦闘兵器である私がその事について意見を申し上げることは憚られるが、私の次世代機…新型武装人型兵器の投入により更に戦火は広がり、今世界は新たな国家を築くどころか、人口の著しい減少に悩まされることになるだろう。



ここで我が主、キッド様のお人柄について少しばかり説明をさせて頂く。
哺乳綱中霊長目ヒト科ヒト属学名ホモ・サピエンスに分類されるごく一般的な未成年男性、名をユースタス・キッド

ユースタスの血は古く彼の先祖は現在地点より南西に位置する海で海賊稼業をしていたとされる。今は焼け落ちて残っていない彼のお屋敷にはその頃の資料やらがあったらしい。今も現存していたとすればさぞ貴重な歴史的価値のある資料であったことが推測される。今の文献の殆どは電子でデータ化されている昨今で珍しい"紙"と呼ばれる材質が祟った模様
現在12歳――同年代の男児と比べても体の成長率は良好 満足の行くレベルでの栄養摂取を出来ておられないのが現在の留意点である
頭髪はRGBカラー:R221 G/57 B/53 目の色も同様の色を持つ
"血の色を彷彿とさせる"と言う人間の深層心理に訴えかける色の為、多くの人間たちから敬遠のような態度を取られている。しかし本人は気にしていない様子 長年の経験故の態度であると推断
性格は至って好戦的であり粗野と称される スラングの混じったクセの強い南の国の英語を話す。旧型兵器である私のブレインでは認識されない言葉も多く使われる為、私共も日々勉強である



長々と我が主の人となりを説明した。
そして当機が語ったこれらは全て、ただの"暇つぶし"目的の為の材料に過ぎない。



合流ポイントA-2 空からは排気の臭いを纏った錆び色の雨が降っている。
右肩の関節から不具合を訴える駆動音を確認 早急にメンテナンスを受ける必要あり

右45度の位置から此方へ近付いて来る生命反応を確認 カメラセンサー起動
我が主たるユースタス・キッドその人であると認識 迎撃態勢を解除する



「よぅナマエ そっちになんか収穫はあったか?」
≪現在地点より南方1kmのところに人間の飲食が可能な基準を保つ貯水池を発見いたしました、キッド様≫
「貯水池?まじかよ じゃあその近くに倉庫みてぇな建物あったんじゃねぇ?」
≪存在 センサースキャンで確認したところ、手付かずである食糧を幾つか視認いたしました≫
「よっしゃ、久々に飯と泥水じゃねぇ液体を飲めそうだな!」



肩からかけた身の丈以上のコート(先代の遺物である)を翻したキッド様の案内に目的を変更
先ほど発見したポイントのデータを数値化させ眼前に起動する。


当機の全長は2m30cm 目測150cmであるキッドの為に、
彼の目線上に頭部が来るよう跪き、ポイントの映像を見せる。
ご覧になったキッド様は口角を2度下げ、眉を1度吊り上げられる。
"苦い表情"と呼ばれる顔だ



「……ここ、えらい海岸に近い場所だな。まさかこの池に溜めてあるのも海水じゃねぇのか?」
≪申し訳ありませんキッド様 当機は旧型であり、塩分濃度を計測する機能は備わっておらず確認することが出来ませんでした≫
「さっき人間の飲食が可能な基準て言っただろ!」
≪濁流は殆ど感知されませんでしたのでそう判断いたしました≫
「そんな時はな、指につけて舐めてみりゃあいいんだよ」
≪"舐める" その行動は当機には不可能 人間の顔に標準装備されている筋肉的突起物は当機には着用しておりません≫
「"舌"な!舌!いちいちテメェは仰々しい言い方すぎるんだよ」



プロトタイプであることを残念に思うことは少なくない。それもキッド様と出会ってからは昔より頻繁に考えることだ。
当機のようなロボットが自律型であることは人類にとっては強みかも知れないが、
――訂正 "らしくない"思考回路を取っていた為強制的にシャットダウン



「…まあいいか。とにかく食糧だけでも確保すんぞナマエ おれを乗っけろ。急ぐぜ、雨脚が強くなってきたしな」
≪了解≫



迅速な移動の為にキッド様の身体を当機の左肩パーツの上に確保
腰掛けられる際、当機の右肩の関節の不具合に気付かれたご様子「またメンテナンスするしかねぇな」是非お願いいたします。それだけ伝えると当機はすぐさま加速する。

道らしい道はない。地盤沈下で隆起している道だった場所を駆け抜けた。

先ほどよりも雨脚は更に強まった。

私の鋼鉄の身体にも、キッド様の身体にも、この酸の雨は毒である
















(荒廃した世界を生きる一人の人間と一体のロボット)

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