OPshort | ナノ
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


▼ レイリー




「ご主人様、何をご覧になられているのですか?」



室内用の箒を持ったメイドが扉の向こうから窺って来ていた。若い娘だ。シャボンディのオークション会場で売りに出されていた哀れな身空の女。来た当初は暗い顔で生気を宿していなかったが、今ではもうすっかり立派なメイド見習いとして屋敷の世話に励んでいる。
「気になるか?」仕事中のくせに、とからかい混じりに訊いてみれば「い、いいえ!すみません」と律儀に腰を折って謝ってくる。いい、気にするな冗談だと言えば娘は見て分かるぐらいにほっとした表情で安堵の息を吐いた。何のことはない。ナマエが自室の書棚に立てかけておいた、写真立てだ。映っている人物たちも、世間に疎いこの娘に言っても大した反応は帰って来ないだろう。時代を知っている料理長の男なら、目をひん剥いて驚くとは思うが。




「…?見ても?」
「構わねぇよ」
「……右側に映っているのは、ご主人様ですか?」
「おぉ、よく分かったじゃねぇか」
「面影があります。何年前のもので?」
「…どれくらいだったか。24とか、25年前とかか?」



そんなに、とメイドは驚いた。セピア調に色褪せた写真は、経年の長さを感じさせない程綺麗に仕舞われているからだ。そんな昔の写真をこれほど大事に持っていることは、ナマエの中でも快挙だ。こんな薄っぺらい、1ベリーにもならなそうな古い写真
棄てられないのは感傷か?大切な思い出だからか? そんなものはくだらない。ただなんとなく、手放すには惜しいと思ってしまうからだ



「ご主人様の左側に映っているのは?」
「"冥王"だ」
「メイ…オウ?人の名前ですか?」
「…やっぱり知らねぇんだなあお前は」
「す、すいません」
「いちいち謝るな。名前じゃねぇ、称号みたいなもんだ。レイリーっつうんだよ」


その名前を告げると、娘は何かを思い出したようだ。「あ!ご主人様がよくお尋ねになられるご友人の方ですね!」 すぐに返事は出来ない。友人?確かに、友人と言われるとそんな気もするが、果たして奴と自分は友人らしい行動をしたことがあっただろうか。シャクヤクの店で酒を飲むことはあるが、別にそれは友人としてやる事ではない。
問われて答えに窮していると娘はまた気を回し「申し訳ありません!」と謝った。もう謝らなくていいから、仕事に戻れ。娘を部屋から追い出し、手に持っていた写真立てを書棚に戻す。

娘が触れなかったナマエとレイリーの肩に手を回して豪快に笑っている男――ゴール・D・ロジャーの笑顔も、写真の中だとちっとも変わらない。これは確か、ロジャーの病気のことが発覚する前に撮った写真だ。だからロジャーも元気だし(それは病気に罹ってからも同様だったが)、レイリーも嫌味な笑顔でもなく、ナマエも自分の中の基準としては割りとすっきりとした笑顔をしている。


楽しかったか?と言われれば、まあそれなりに、とナマエは答える。
ロジャーが長であるあの船に乗れたことは、ナマエの人生を語る時に無くてはならなかった体験であったことは間違いない。
沢山稼がせてもらった。これでもかと言うばかりの黄金の金貨の山は、今も手に感触が残っているほどだ。眩い宝物の数々に、見たこともないような武器や鉄砲、レイリーの頭に亡国の王冠を被せ「似合わねぇなァ!」と馬鹿笑いしたこともある。その時の奴の顔はどうだっただろうか。楽しそうにしていたことは間違いないが、腹黒いあの男のことだ。胸中ではどんな悪態を吐いていたやも知れん



本来は今日の午後から、シャボンディへ出かけようかと思っていた。
仕事のツテで紹介したい貿易商に挨拶をしに行って、まあついでのオマケ、行きがけの駄賃程度にレイリーの顔を見に行こうかと考えていたが、今日は少しレイリーのことを思い返しすぎた。頭の中が今あいつのことで一杯だ。これ以上、直接会ってどうする?余計に脳内を埋め尽くしてどうするんだよ、ナマエは「やめた」と声に出して今日の計画を反故にした。貿易商への挨拶は、別に今日でなくともいい。勿論それはレイリーにちょっかいを出しに行くと言うのも同様だ。



時間が空いたなら、地下の金庫に降りて資財を数えていよう。至福の時だ。大量の金を数えて手元に抱き込むのは、一種の麻薬だ。止められない、病み付きになるもの。


金はいい。
金には力がある。
ロジャーの件により、世界中に散らばったロジャー海賊団の残党狩りに捕まったナマエがレイリーやシャンクスのような腕利きではないのにこうして生き延びていられるのも、捕らえてきた海兵を裏で買収したからだ。
人間を金で買うなど、容易い容易い


そんな事を考えていると、ふと以前レイリーと交わした会話を思い出す。


――「もし私が攫われ人間オークションに売られたとしても、だナマエ」
「お前が、私を買いに来てくれるだろう?」



またもレイリーのことを考えしまった自分が憎憎しい。
が、あの時に零された冗談をこうして思い返してしまったのは何故だろう。
あいつにどれ程言ってもGR1やGR2をウロつくのを止めたりしないせいで、イライラするからか? だがまァあんな奴がどうなろうと知ったことじゃないがな。だがむしょうに心が逸って来た。船乗りをしていた頃から不吉な予感だけは的中させる自分のシックスセンスがそう告げている。



「………ちょっかいを出しに行くだけだ。 いや、違う シャッキーの酒を飲みに行く。それだけなんだ」



言い訳でも建前でもない。これは理由だ。
レイリーの様子を窺いに行く? そんな暇なことをすると思ってるのか?

誰も聞いていないのに心内でナマエが作り出した言い訳…理由は完璧だ。今から船を出せば夕方前にでもあっちに着く。
あいつがオークション会場で売られていようがGR2辺りで野垂れ死んでいようが、ナマエには関係ない。 そう、シャクヤクが悲しむ。それだけでしかないのだから






prev / next