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▼ エース

*母親主/転生







我が子は生まれた時から内臓器官が弱かった。
呼吸をするのが他の子どもより上手く出来なかったり、生後間もなく病院への入退院を繰り返したりした。
でも生きて行くのに別状はなく、よく担当医の方から「お母さん、諦めないであげてください」と何度も励まされたのを覚えている。
勿論、可愛い我が子だ。身体が弱いからと言った理由で育児を放棄しよう等とは決して思わない。
いつも苦しそうにしている我が子を見るのは辛かったが、それを乗り越えた時は手放しに愛し褒めた。きゃらきゃらと笑うこの子は可愛いからだ。







「エース」

「え、すぅ」

「違うちがう、エース え、−、す」

「えーす」

「そうそう!」


自分の名前をきちんと発音した。 それだけで目の前の"母親"は、本当に嬉しそうに笑う。エースにとって、それが一番であり、何よりであり、全てだった。

前世の記憶を丸ごと引き継いで生まれ変わった。それは脳だけに留まらず、焼かれた肺や器官までもを反映し、己を苦しめる。極端に小さな肺の大きさは元より、レントゲン写真には腫瘍のようなモノが映るのに、実際には存在しない。ソレは"火傷"の痕のようだと称される。間違ってはいない。痛みとは、苦しみとは、何度生まれ変わろうとも引き継がれる運命らしい



「エース 今日は何が食べたい?」



病院検診の帰り道 今日も大人しく治療を受けた我が子を労おうと母親は外食を提案する。料理をするのが下手な女性なのだ。エースもそれをちゃんと分かっており、「うーんとなぁ…」と頭を捻り何にしようか悩む様子を見せてやる。
何でもいいのよ、と促され、「レストラン行きたい!」と答えれば「エースは本当にファミレスが好きねぇ」と母親は笑うのだ。

エースの中にある、記憶の中の"母"とは違う。
声も、顔も、姿も、性格も、愛し方も "ポートガス・D・ルージュ"ではない、"ナマエ"と言う女性の子どもとして生まれ変わった。
それに意味はあるのだろうか、それとも有りはしないのか



「……たまには母さんのつくるご飯が食べてぇーなー」

「え、そ、そう? うーん……そっかぁ……」



じゃあまた明日作るからね。 ナマエはエースの黒い髪の毛をそっと撫で付けた。優しい手付きだ。思わず目を細め、その手に擦り寄ってしまうぐらいに。


母親の、ナマエの手は 温かい








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