とうらぶ | ナノ
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
膝丸


「兄者を隠し匿うと為にならんぞ主よ」


ジャージ姿に頭に手拭、手に軍手、端整な顔に汗と土と埃をつけた膝丸は、ひどくドスの利いた声で半ば審神者を脅すような言葉をぶつけた。しかし全く凄みはない。格好も格好だし、何より膝丸の表情には呆れと焦りと悲しみが見え隠れしているからだ。


「俺はアイツを隠してもないし匿ってもないぞ、膝丸」
「……それは真か?」
「本当さ。ご覧の通り、俺は政府から届いたアホみたいに文字の多い書簡に眼を通すので精一杯だ。そんな、内番をサボって雲隠れをしている髭切のことなんか、まったく知らん」

机の上に広げていた大量の書簡を手に取って見せびらかす。
それを見て、ムムムと眉間に皺を寄せた膝丸は、了解したとばかりに頷く。

「……その言葉、信じよう。 邪魔をしたな主」
「ああ、いいさ。お前一人でやるのは厳しいだろうから、どこかその辺を歩いてる御手杵がいれば仕事を頼むといい。あいつは文句を言いながらも手伝ってくれるぞ」
「分かった、探してみよう。では失礼する」


丁寧に一礼し、膝丸は部屋を出て行った。遠くの方から、膝丸の声で「御手杵殿!いずこにおわす!」と呼ぶ声が聴こえてくる。
膝丸のことだ、後のことは自分たちで上手くやるだろう。俺は今日中にこの書簡全てに目を通して返報を打たなければならないから忙しいんだ。2205年のこの最先端のデジタル社会にまだこんなアナログ手法で連絡を送って来る政府は一体なにを考えてるんだろうかまったく。







「―――主」


「  膝丸?」


半分ほど読み終えたところで、再び私室の襖が開かれた。
顔を覗かせたのは、申し訳無さそうな表情の膝丸。格好は先刻と変わっていない。

「何度もすまない。今いいだろうか」
「大丈夫だぞ。どうした。御手杵がボイコットでもしたのか?」
「ぼい……? いや、御手杵殿は手伝いを快諾してくれて、今も動いてもらっている」
「ならどうしたんだ?」
「内番をこなしながらも本丸内を行き交う者たちに目を向け、兄者を探しているのだが一向に現れないのだ。本当に知らないか?兄者を」

本当に知らない、と返せば終わることだろうが、それでは心配げな様子の膝丸に申し訳ないような気がしたので、「うーん」と首を捻って思案してみる。
けれど本当に分からない。俺は朝から一日中この部屋に篭っているし、部屋を訪れて来る刀たち以外のことは今日は目にしてないのだ。

「万屋へ買い物に行っている……わけでもないだろうな。俺を伴わず勝手に出歩いたりはしないだろうし」
「ああ」
「となると、他の刀と一緒に過ごしているのかも知れんが……誰か知ってないかな」

誰かに聞いてみよう、と立ち上がって廊下に出てみる。その後ろから「手間をかけてすまない主」とまた申し訳無さそうな顔をした膝丸が付いて来る。
「気にすることはない、俺も座りっぱなしでケツが痛かったんだ」
そう返すと、膝丸は犬歯が目立つ歯を見せながら、薄く笑みを浮かべた。


「誰かに訊く、となれば一番に頼るのは長谷部がいいな」
「そうなのか?」
「あいつに何かを訊けば大概のことは答えてくれるんだ。自分自身のこと以外でな」


確か今日の長谷部には、安定と手合わせの内番をつけていた筈だ。

中庭を通って道場に向かうと、道場の門扉を開く前に「主?」と長谷部が中から顔を出してきた。その後ろから折り重なるようにして安定も顔を見せる。「あ、主」二人とも汗を掻いているところを見ると、なかなか白熱したバトルを繰り広げていたのかもしれない。


「なんだ長谷部。気付いたのか」
「主の霊力を感知しましたので。俺に何か主命を言いつけに?」
「あー、キラキラしてるところ悪いんだが、髭切を知らないか?」
「……髭切?」
「そうだ。兄者がどこにいるか存じないか」


長谷部は膝丸の問いに怪訝そうな表情を浮かべたが、逡巡した後、「主」と俺の方を向いて礼儀よく姿勢を正す。


「俺の思い違いでなければ、確か髭切は昨日の夜分から歌仙兼定、鯰尾藤四郎らを伴って遠征に出立していますよ」


「――あ」



そうだ。そうだった。わすれてた。確かに、遠征を任せていたんだった。

それを忘れて、俺は今朝内番の組み合わせを決める時にいつものローテーション通りに髭切を内番にも入れてしまったんだ。


「………あ〜る〜じ〜」
「悪い!悪かったって膝丸!今朝は寝惚けてたんだ!!」

恨めしそうに膝丸が見つめて来る。長時間の遠征に出ている者に内番を任せたら自ずと帰ってきてからの参加になる、となればそれまで自分の負担が増えるのだから膝丸が怒るのも当然のこと……


「どうして俺も兄者と同じく遠征に出してくれなかった!!」

「え、そっちか?」




prev / next