とうらぶ | ナノ
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燭台切光忠は、"隠してはいないが、率先して触れ回ることでもない"あるとっておきの事実をその胸に秘めている。勘の良い刀なら気づいていそうなことで、別に「だから何?」と言われてしまえばそれまでなこと。



この本丸において、審神者に鍛刀されて顕現した刀は、燭台切光忠だけ。
他の刀たちは皆、光忠が単騎で出陣し、各時代の戦場で彼自らが連れ帰ってきた物たちばかりだった。
自らの力を卑下し、出し渋り、嫌だ嫌だとさめざめ落ち込む主を説き伏せながら、一本、一本と本数を増やして行って、ようやく本丸が賑やかになる程度刀が揃ったのはひとえに言っても光忠の功績によるものだ。


燭台切光忠は戦場に出ることが好きだ。
それは本丸にいて皆の世話を焼いたり、料理を作ったりすることよりも格好良く魅力的で、そんな自分の姿を主が見ていてくれる時が一番充足感に包まれる。
光忠が戦場から一本、また一本と刀を持ち帰ってくるたび、主はいつものように脱兎の如く逃げ戸惑うが、光忠のこの行いを「やめろ」とは決して言わない。それは、燭台切光忠が"自信過剰"に言っても許されるなら、主が戦場での光忠の働きに、感心しているからではないのか。主の思うところではない行動をしても許されているのは、主自身が光忠の行うことに信頼を置いているからではないのか。それは、


「…ムシが良すぎる、かなぁ?」


光忠は"良かれ"と思ってやっている。卑屈極まりない性格の主だが、悪い人間ではないと分かっている。だから色んな刀たちに好かれるべきだし、好かれることによって自分に自信を持つべきだとも思っている。だから光忠は戦場で新しい刀を見つければ連れて帰る。
そう、他ならない、主のために。


「………だったん、だけどなー…」


現在、光忠の中に生まれたある感情。それはとても、"ムシのいい" "自分勝手"で、"格好よくはない"もので。

最近の主は、あれでもマシになってきた方だ。昔は光忠でさえ主の顔を見る時間が日に10分とないような時さえあったが、今は他の刀たちの中にも率先して主の探索に乗り出すものたちが増え、ワイワイガヤガヤと主を取り囲んでは彼に構ってもらおうと賑やかにしている姿を見かけることが増えた。

そう、それは、光忠が思い描いていた理想図だ。
主の良さを分かった刀たちに、主が囲まれている、和気藹々とした光景。


だが現実は、思っていた以上におもしろくないものになっている。


現に、刀たちに囲まれている主は、出陣して帰って来た光忠のことに気が付いていない。
正直言って他の部隊の面々のことには気が付かなくてもいいから、部隊長である自分にぐらいは声をかけて欲しい。
いつもなら隠れてぶつくさ自分を卑下している主を捜索して、顔を合わせて「ただいま」を言っているところなのに、それなのに、




「……………あ、ああああ〜〜〜!格好悪い!もしかしなくても今の僕、すごく格好悪いんじゃないのかなー!!」

「………………」

「ねえ骨喰君!君から見て今の僕ってどう!?どんな風に見えてるの!?格好悪い!?キマってないよねえ!?」

「……あんたの姿はいつもと変わらない。ただ、行動面で言えば挙動不審だと思う」

「あああやっぱりだよねー!ちょっと僕、先にお風呂行くから骨喰君が報告しておいてくれないかな頼んだよじゃあね!」

「……………」




出陣・帰還の報告はすべて部隊長の役目なのにそれを別の子に押し付けるなんて格好悪いことをやらかしてしまったのは分かってる。去り際に見た骨喰君の「俺に…どうしろと?」って言いたげな表情を思い出して心の中で謝罪の嵐。けど責任感の強い骨喰君ならきちんと僕の代わりに主に報告をしてくれるだろう。そう、僕の代わりに、完璧に、主に、報告を…………



「……やっぱり僕が報告行けばよかったぁー!」



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