とうらぶ | ナノ
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「他人のことなんか気にするなと、いつも言っているというのに」

「ん? いや、今日はまだこの一度しか口にしていない」

「やれやれ、本当に難儀なやつだ。大包平よりも気にしいだな、君は」

「まあそう言うな。ほら、俺の作った握り飯を食べて元気を出せ」

「 ああ、因みにそれはさっき馬が吐き出したやつだ ……すまない、冗談だった。安心して食べてくれ」

「君は馬と違ってペッとしないところが好ましいな。どうだ、茶もいるか? そうか要るか、では……」




「あれ、鶯丸さん? 誰とお話してるんだい?君以外、誰もいないようだけど」

「ああ、光忠か。縁の下に引き篭もっている主と話をしていたのさ」





「主クン!! こんな所にいたんだねやっと見つけた!!ずーーーーっと捜してたんだからねお昼から今まで!今日は重要な軍略会議を他の審神者さん達と開くんでしょ!!もう!時間!だよ!こんのすけ君が部屋で"もにたあ"開いたまま「少々お待ちを。少々お待ちを!」って引き延ばしてくれてるんだ、早くそこから出て来なさい! ほらもう腹這いになってたから泥だらけじゃないか!"かめら中継"なんだから身形はキッチリしないと駄目だよ。「光忠」 他の人たちに恥ずかしくない格好をしてからじゃないと僕許さないからね! 「光忠」 え? 駄目だよ"ぼいこっと"しちゃ!この前もそう言って会議に出席しなかったでしょ!今日と言う今日は…「光忠」 さっきからなんだい鶯丸さん!」


「何故先程からそうやって外から呼びかけるだけなんだ。手を伸ばせば届く距離にいるのだから引き摺り出せばいいだろう?」


 やはり着物が汚れるからか?

鶯丸は当然の指摘をしたつもりだった。
しかし燭台切は不思議そうに目を丸くさせ、「だって」と、しゃがみながら立てていた自身の膝に肘をつき、頬杖をついて今尚堅牢な縁の下の主を見やりながら


「主クンは本気で嫌がってるんだ、"他人の前に出ること"ってことを。それを力ずくで言うことを聞かせようとするのは、格好良くないだろう?」

「? 主を食の席に連れて行く時には引っ張って連れてくるじゃないか。それとは違うのか?」

「だってアレは、主クンの"嫌がること"じゃないんだよ。だから多少は強引に出ちゃうんだ」

「分かるのか」

「なんとなくだけどね。今回の会議も、僕は主クンが出たくないなら無理強いはしないつもりだけど、こんのすけ君に迷惑が掛かってるからこうして口撃はする感じで」

「なるほど、さすがは光忠だな。 ……ん、主が出てきた」

「自分から出て来たんだね。偉い偉い」

「何やら小声でブツブツと言っているな」

「そうだね、こっちには聞こえないけど」

「会議には出るらしいな」

「そうこなくっちゃ! じゃあ鶯丸さん、僕らはこれで失礼するよ」

「ああ。 光忠の手によって煌びやかに着飾られてくると良い、主」



主は心底嫌そうな顔をした。しかし、「ほら!ちゃんと背筋伸ばして歩いて!」と背中を叩いて押した光忠の笑顔を見て、後に続くはずだった言葉を飲み込んだようだった。

己を卑下する言葉に対しては淀みを見せないのに、他者に送る言葉は伝えない。
それでは心が参ってしまうばかりだろう。
もう少し見守っているべきだ。鶯丸はそう判断した。大包平のいない現状でも、観察対象として充分な人材はいたらしい。
とりあえず、いつも隠遁している主をもしも見かけた時は、茶に誘おう。それで今日のように話を聞いて、実りのない助言をやって、淹れた茶をやって、握り飯を食べて貰おう。
きっとそれらが終わった頃には、また光忠が主を捜しにやって来る。

話を聞いてやるのは鶯丸の役目だが、
最後に迎え入れてやるのは光忠にしか出来ない役目に相違ない。

それが主の眼が語るところであった。


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