とうらぶ | ナノ
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???の考え方


 つい最近、昔から審神者をやっとる古株の友人と会って聞いた話だ。そいつも俺と同じように年の行ったおっさんで、遣る事成す事荒っぽくて刀の連中を大層振り回しているそうだが、古株なりベテランなりの矜持もまた一段と大きなやつだ。そいつが言っていた。最近の政府は俺らみたいな妙齢の人間ではなく、年の若い、オムツに毛の生えたような人間を多く審神者として登用しているそうな。年齢ではなく身体の若さを買って、限界までコキ使ってやろうって魂胆だろう。でなければ、あんな未熟な連中を使うはずがない。そいつは誰か特定の者を指して物を言っているようだった。尚もこう続ける。

「久方ぶりの演練に行った時のことだ。午後からの相手が、女だった。おそらく二十もそう行っていないぐらいで、ようキョロキョロしては周りを見てばかりだった。いざ時間になっても刀を前に出してこない。青装束に身を包んだ刀の袖を掴んでは『やだやだ、戦う演目だったなんて聞いてなかった。あなた達に怪我なんてさせたくないし、怪我した姿を見るのも嫌よ。ねぇ、帰ろう』なんて言って演練を拒否した。わけが分からん。演練の事項なんぞ、最初にこんのすけが説明した筈だ、ここでの戦いは仮想のもので、受ける傷もイメージだと。説明を聞かなかっただけじゃないか、だと?人の話をちゃんと聞かん奴はどっちにしろ好かんわ。刀の方も弱り顔だった。若い奴はこいつらのことを刀だと思っていないのが多すぎる。人の姿を取っていても、こいつらは刀じゃ。言うてしまえば道具だと思うた方がええわ。『怪我をさせたくないよ』じゃと?こいつらに出来るのは「怪我」じゃない「傷」じゃ。人間のそれと違って、手入れをすれば傷痕さえも残らんと全てを修復できる。だから何度も何度も戦地に送って、帰って来れば手入れをして、全てを直してまた送り出す。来る日も来る日もじゃ。我らと刀がそんだけやっても、まだ歴史修正軍の数は減らん。なんせまだ八億だか七億だかおるそうだからな。気概の低い、生半可に人としての情を持っとるような若いもんには、チンタラしとる暇はないと教えて回りたいわ。大事に大事に仕舞いこんで、戦いから遠ざけてやることが、刀を…こいつらを一番駄目にすることじゃとどう分からせたらええんじゃろのう」



人間と刀の付き合い方は、それこそ千差万別だ。
その本丸には本丸の、その審神者にはその審神者の、あらゆる付き合い方というものがある。
 けれど、刀には。
奴ら刀にも千差万別色々いるが、一貫している価値観は「自分たちは何かを斬る道具である」ということだ。
その「道具」というニュアンスもまた、感じ方や捉え方は受け手によるが、
彼らは使われたいだろう。何よりも。「刀」として。
大事に仕舞いこまれて鑑賞置物にされるよりかは。閉じ込めて、置かれるよりかは。




 使われもせず、
 戦に出されもせず、
 ただ飼い殺しにされていた刀しかいない本丸が、
 敵素行軍の本丸襲撃を受けて、生き残れる筈はないだろう。




政府観測員からの連絡はここにも届いていた。
昨日未明、ある世界線の本丸が敵素行軍の襲撃を受けて崩壊。当時本丸にいた刀たちは何と全てが練度最低値。主である審神者だったのはまだ年若い女。時代錯誤に陥り、艶やかな花模様の着物を身に纏い、刀たちを脇に侍らせながらただ日々を送っていた。
 刀たちは全て折られており、審神者の女も敵の手に落ちて攫われていたそうだ。


色んなことに利用されて、
綺麗な着物も身体もボロボロにされて、審神者としての力も失った。
そして最期には別の世界線へ渡る道すがら打ち棄てられて、流れ流れて果てて死ぬ。


審神者の最期の末路として、最も多く前例が上げられている死に様である。






「長谷部」

「はい、主 どういたしました?」


 刀を 刀として見ないから、
 
 刀を 刀として見る以上に、大切にしてしまったから とは 言わないが




「俺は、これからもお前らの主として」



兵法? 戦略? 刀剣の扱い方や手入れの仕方? そもそも刀の各名称? 馬鹿言え最初は丸きり知識無しに決まってるだろう。こちとら戦とは縁も縁もない2205年の世界で生きてた現代人だぞ。勉強、勉強、勉強、お勉強あるのみだった。おかげで大先輩方から譲り受けた兵法書はどれも破れかぶれだ。まあだが文句は言われない。今は全員あっちの世で酒でも呑んでいるかもしれないからな。



「…………頑張っていくからな」



ああ、格好良く決めるつもりが、大事な場面でしどろもどろだ。

 ほら見ろ、長谷部が苦笑している。「ええ、」にこりと微笑んで一つ頷く。



「心得ております、主。 刀を持って振るうのは我々ですが、今その場を戦場と定め、刀を振るえよと命じるのは、貴方です。 主が「戦う」という意志を見せなければ、"刀"は独りでには動けません。主である貴方の意志があってこそ、なのですから。 ……差し出がましいことを申し上げてしまったでしょうか?」

「いいや、それでこそだと共感した。俺の考え方は審神者として…お前たちの主として間違ってはいないのだと安心できた。ありがとう長谷部」

「いえ、そんな…!」


結局俺も自分本位な面があるわけだが、さて俺と刀のどちらが盲目になってしまうのが先なのか


「……あーー色々考えていたら、腹が減ったなぁ」

「! では何か軽くお作りして、持って参りましょう」

「おお、頼むぞ」


長谷部が行儀よく部屋を退室していく。
さて、俺はと言えば


「……光忠の名前を呼んで事切れたっていう女が本当に審神者だったとしたら、というより十中八九審神者だろうが、この世界線のこの付近にも近々襲撃があるやも知れんなあ。見回りの徹底と刀たちの練度強化を増し増しに組み込んどくかぁ」


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