とうらぶ | ナノ
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
審神者が棄てられていた


 うちの主は戦や兵法に関すること以外にはとことん適当な人で、せっかく僕と歌仙君と長谷部君とで丹精込めて作った料理をたらふく平らげたあとに「煙草が吸いたい」などと言ってしまうのだ。美味しい料理を食べたあとに、あんな有害物の味を占めたいだなんて主の味覚が馬鹿になってしまうんじゃないかと三人で心配を重ねている。特に長谷部君なんてよりそれが顕著で、こうして僕が主に頼まれて煙草の買出しに出かける寸前にも遠回しに煙草を吸わないでほしいと伝えていた。けど、主は渋い顔をされながらも、長谷部君の言葉に強い拒否はしていなかったから、多分このまま僕らが煙草撲滅運動を続けていれば、いつか主はこれを辞めてくれるかも知れない。それまでは大人しくお使いに甘んじていよう。それにしても人と言うのは、なぜこうも自身に危害を加えるモノを生み出してしまうんだろう。

 もうだんだん暗くなってきた。万屋から本丸への道すがら、舗装のされていない道路には砂利や小石がむき出しで転がっているから下が見えずに転んでしまえば大惨事――格好悪さ爆発だ。特に目撃者もいずに独りでこけた時が一番恥ずかしい思いをするんだ!やっぱり主から懐中電灯を借りてから出かければよかった。ただでさえ僕の視界は右半分無いのだし、急いでこれを持って帰ろうにも躓きたくないという気持ちが大いに勝ってしまっている。ここはやっぱり、ゆっくり、着実に帰ろう。ああ、街灯が欲しいよね、せめて万屋に通じる道の間くらいには。



「 あれ」


小道を少し逸れた雑木林に、頭上から降り注がれている月の光に照らされて、あるものが倒れている姿が映し出されていた。人間だ。

「こんなところで人間の死体とは珍しいね」

人の往来のある街道でも、人家立ち並ぶ人里近隣でもない。賊が根城にするほど寂れた土地でもなく、強いて上げるならゴミなんかの不法投棄によく用いられる場所だ。僕は本丸までの近道になるから急ぎの場合は此処を通るけれど。
そこに、人間が一人。興味本位でつい視線を送ってしまう。本丸に帰る足は止めないままで。

まだ死んでから日が経っていないのか、腐敗は進んでいなかった。野犬や野鳥に食まれたような形跡もない。元は上等な着物だったようで、擦り切れたボロ衣装にはところどころに艶やかな花模様が見える。ということは、あの死体は女性か。毛髪が短かったので直前まで分からなかった。もしかしたら長髪だったけれど何者かに刈り取られたのかも知れないけれど。女性の綺麗な髪の毛は、昔は色々と入用になっているから。
うつ伏せになっているので顔は見えないが、背丈から見るに若い子だったようだ。
けど、僕らの生きて来た時代を鑑みると、野晒しの死体なんてよくある話だ。特筆して物珍しいことでもない。中でも女性なんてのは、一人でこんな夜遅くにこんな場所を歩けば襲ってくれと言っているようなものだ。それをこの死体の子は知らなかったのだろうか?余程温かな温室で暮らして来たのか、それとも……。


「 ……あ! いけない、遅くなりすぎだ、主が心配する!」


未だ届かない煙草の方を心配されている恐れもある……それは駄目だ、早く帰らないと、



「急い―― でッ!?」




ころんだ。 それはもうものの見事にころんだ。 だいさんじだ


砂利に足を取られたわけでも、小石に躓いたわけでもない。

死体が、僕の右足を掴んでいた。
 あれ、死んでなかったの? ちょ、ちょっと、君のせいで今ぼくだいぶ恥ずかしい思いしたんだけど!鼻打ったんだよ、鼻!すっごく格好悪い思いを…………「 え?」




prev / next